劇場公開日 1984年12月15日

「ここが、天国にいちばん近い島」天国にいちばん近い島 近大さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0ここが、天国にいちばん近い島

2021年6月1日
スマートフォンから投稿
鑑賞方法:VOD

楽しい

幸せ

萌える

大林宣彦監督1984年の作品。

グズでドジでのろまな女子高生、万里。彼女は幼い頃、父が話してくれたニューカレドニア諸島の何処かにある“天国にいちばん近い島”に憧れていた。
父が急死し、彼女は決意する。ニューカレドニアの旅行ツアーに参加。“天国にいちばん近い島”を探しに…。

旅に出たのはいいものの、自分でツアーにはぐれたりとトラブル続き。
そんな時出会った人々。
非公認のガイド、深谷。ダンディーな大人の男性。峰岸サンがカッコいい!
戦争でニューカレドニアの海に散った夫に会いに来た老婦人。乙羽信子がさすが気高く。
現在で暮らす日系人三世青年、タロウ。高柳良一が好青年。お互い、仄かな感情を…。
メルヘン×ノスタルジックの中にも込められた反戦への訴え。
開幕やその音楽、深谷と老婦人に同行した女性エッセイストのロマンスは往年のハリウッド映画のよう。大林色、お遊びも。
異国の地での経験、出会いを経て、少女は上っていく。大人という階段を。

はっきり言って他愛ないストーリー。
“天国にいちばん近い島”も見ている内に、それが“場所”じゃない事も何となく察し付いた。
全てがご都合主義、予定調和。
でも、それでもいいのだ。
本作が映画主演3本目。原田知世の初々しい魅力まだまだたっぷり。彼女のアイドル映画でもある。
そして何より、誰もが絶対思う。行ってみたい。ニューカレドニアの美しい島々、海、空の風景。
これらを見て、癒されるだけでいいのだ。

劇中での印象的な台詞。
万里はニューカレドニアを天国のように憧れていた。
タロウはまだ行った事の無い日本を夢の国のように思っていた。
それぞれの国、住む人によって感じ方は違う。
この地球上に“天国にいちばん近い島”はあるのかな、と。
それとも、気付いてないだけで、今私たちが居る所が“天国にいちばん近い島”なのでは、と。

Wikipediaによると…
映画公開の翌1985年、ニューカレドニアはフランス植民地に対する独立運動が激化。撮影中も緊迫した雰囲気があったらしいが、作品にはそんな雰囲気は微塵も無く、酷評を浴びたという。
でも…
これが政治的なドラマだったら描いて当然。
しかし本作はあくまで一人の少女のメルヘンチックな自分探しの旅。そこに血生臭い政治色を入れたら作品がブレてしまう。
本作を見て当時、あまり馴染み無かったニューカレドニアへの旅行がブームになったという。
現地に着いて、独立運動に驚愕もしたであろう。
後の判断は個人に委ねる。
何が“天国にいちばん近い島”だ!? 怖くてもう来たくない!
そう思った人もいただろう。
でもその一方…
惨状を目の当たりにして、何か出来ないか。現地に着いて、初めてニューカレドニアの真実を知った。もっとよく“天国にいちばん近い島”を知りたい。
映画は時に、そんな事を教えてくれる。

近大