「狙われた帝都」帝都物語 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
狙われた帝都
千年の昔から平将門の怨念宿る帝都・東京。
将門の霊を目覚めさせ、帝都壊滅を目論む謎の魔人、加藤。
加藤の魔の手から帝都を守ろうと闘う人々…。
荒俣宏の小説を映画化した1988年の作品。
特撮SF、陰陽道や魔術を散りばめた伝奇、ホラー、ミステリー、明治末期から昭和初期のロマン溢れる時代を舞台にした大河要素…。
個人的にそそられるジャンルや要素がてんこ盛り。
関東大震災などの実録事件や当時の実在の著名人も絡め、史実と空想の、スケール大きいエンターテイメント。
しかし残念ながら、傑作にはなり損ねた。
ストーリーがいまいち分かり難い。
大長編小説の1~4巻を2時間強に収めるのには無理があったようだ。
本来ならもっと各々エピソードは広がり、数多い当時人物も深く描かれている筈が、相当はしょられ、巧く纏まっているとは言い難いのは原作未読でも感じてしまう。
それでも本作は、鬼才・実相寺昭雄監督の手腕あってこそ。
『ウルトラマン』『ウルトラセブン』などで特撮に造詣深く、江戸川乱歩の怪奇ミステリーも手掛け、本作の監督適任者に実相寺を置いてそうは居ない。
奇っ怪でありながら何処か魅力的な、独特の世界を創り上げた。
関東大震災シーンはほんの一瞬だが、崩壊した東京のミニチュア・セットは本作の特撮最大の見せ場。
H・R・ギーガーのデザインによる魔物などのクリーチャー、当時の最新のSFXを駆使した妖術なども見物。
明治末期、大正、昭和初期を再現した木村威夫によるこだわりの美術やオープン・セットは見事の一言に尽きる。
多用されているクラシック音楽も作品にマッチ。
そうそうたる名優、当時の人気俳優揃い踏み。
中でも、加藤と対する巫女・原田美枝子の凛とした美しさが光る。
だけど何と言ってもキャストでは、
嶋田久作!
嶋田久作=加藤、加藤=嶋田久作というくらいのハマり役!
今やベテラン俳優の嶋田久作だが、この時ほぼ無名の新人。それでこの圧倒的存在感、強烈インパクトは恐るべし…!
嶋田久作の怪演と共に、魔人・加藤は邦画屈指の名悪役!
総じて、
ストーリー的には今一つ。アクションのキレやスリルの盛り上がりは欠け、テンポも鈍い。所々チープでもある。
が、実相寺監督の演出と作風、嶋田久作の怪演がそれらを補い、個人的には嫌いじゃない。
人々が未来へ夢と希望を持ち、東京が栄え続ける限り、加藤の野望は襲い来る。
…しかし、ご安心下さい。このお話は、架空の東京の物語なのです。
え? 何故ですって?
現実の東京は今、加藤に狙われる以前に、崩壊しているようなものですから。