帝銀事件 死刑囚のレビュー・感想・評価
全1件を表示
綿密な調査に基づく脚本、力強い演出に圧倒された。初監督作でコレとは、熊井啓すごい
熊井啓 監督・脚本による1964年製作(108分)の日本映画。原題:The Long Death、配給:日活、劇場公開日:1964年4月12日。
1948に起きた銀行強盗殺人の帝銀事件を、ドキュメンタリータッチでとても丁寧に描いていた。何故か、熊井啓監督作品は「忍ぶ川」しか見ていなくて、この映画が監督デビュー作(自身のオリジナル脚本)とのことで、その完成度の高さや力強さにビックリしてしまった。
とても有名ながら帝銀事件のことは全く知らず、この映画により事件の様相を詳細に知ることが出来た。随分と大胆で大量殺人を計画的に行なっており、ビックリもさせられた。警察の捜査や新聞記者の取材、さらに容疑者のセンセーショナルな報道やその家庭への世間の強烈な迫害も詳細に描かれていた。疑わしきを罰する様な報道や社会のあり方は、今も昔も変わらないと感慨を覚えるとともに、その理不尽さを見事に描き出していて感動を覚えた。
逮捕された平沢貞通の証言と事件の実際との矛盾も、綿密な調査に基づく脚本により説得力を持って描かれていた。また本事件がきっかけの新聞記者(内藤武敏)と生存者銀行員女性(笹森礼子)の恋愛結婚の事実も、しっかりと盛り込まれていた。
特殊な毒物入手や手早いピペット操作の点で本事件を起こすのがとても難しく思える平沢貞通(信欣三)が、自白に追い込まれ、後に無罪主張も有罪となってしまう展開は、その後も続く冤罪事件と同じ構図。自白重視の犯罪捜査や報道に迎合する判決の問題を浮き彫りにしていて、先見性大と思えた。映画では七三一部隊員の関与とGHQの捜査への圧力を示唆し、元七三一の隊員(佐野浅夫)も登場させていた。
最後、死刑判決を受けた牢獄内の平沢と、世間からの弾劾のため海外に行かざるを得なくなった娘柳川慶子の金網越えの手の握り合い・抱擁の演出の力強さに圧倒され、大きな感銘を受けた。多くの人間に訴えかけてくる凄い映画だった。
監督熊井啓、脚本熊井啓、企画柳川武夫、撮影岩佐一泉、美術千葉和彦、音楽伊福部昭、録音古山恒夫、照明吉田協佐、編集丹治睦夫、スチール目黒祐司。
出演
信欣三平沢貞通、高野由美志乃、柳川慶子俊子(平沢の娘)、鈴木瑞穂大野木、庄司永建笠原、内藤武敏武井(被害者と結婚する新聞記者)、井上昭文阿形(新聞記者)、木浦佑三鹿島、平田大三郎北川、藤岡重慶小田、平田未喜三稲垣、小泉郁之助夏堀、伊藤寿章梨岡、高品格山藤、松下達夫木村、陶隆司国木田、草薙幸二郎森田、長尾敏之助裁判長、垂水悟郎山本、宮崎準正田、笹森礼子正枝(被害者の銀行員)、北林谷栄平沢の妻、山本陽子(被害者)、佐野浅夫佐伯。
全1件を表示