「これもまた映画の力だ さすがは熊井啓監督だ」帝銀事件 死刑囚 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
これもまた映画の力だ さすがは熊井啓監督だ
巨匠熊井啓監督の初監督作品
1948年に実際にあった銀行員12名を毒殺した事件から16年後の1964年公開
犯人は事件発生から7ヶ月後に逮捕され、1955年最高裁で死刑が確定する
しかし1959年、松本清張が「小説 帝銀事件」を出版して、真犯人は旧軍関係者とGHQの仕業であるとの推理を展開する
このように逮捕当時から冤罪ではないのかという疑惑がつきまとっていた
本作もその冤罪であるとの見方の上で構成されている
監督自ら丹念な資料調査や、平沢貞通死刑囚との面会、現場の実地の調査や関係者への取材の上で製作され、恐ろしいばかりのリアリズムが徹底されている
まるで映画を観ている者が、自分も本当に事件現場にいたかのように感じるほどだ
公開当時、国会でも取り上げられたり、最高裁長官が不快感のコメントを出すなど大きな話題となった
本作が寄与したのかどうかは分からないが、死刑は執行されず、平沢死刑囚は1987年95歳で獄中死した
映画では捜査の状況を分かり易く、新聞記者を主人公として事件後は展開される
本作では平沢死刑囚は無罪、真犯人は別にいてGHQの陰謀の立場で、捜査に圧力がかかり、別人に自白を強要した冤罪事件であるとほぼ断定している
劇中で新聞記者達が、捜査にGHQの圧力が有ろうが無かろうが日本の司法がこう裁いたのだから、受け入れるしかないのだというシーンには監督の良心を感じた
冤罪なのかどうなのか?
それは自分には分からない
平沢死刑囚では腑に落ちないところは確かにある
しかし日本の司法が、膨大な資料、反証を子細に検討して、そのように裁いたのだ
これを受け入れないのは司法を認めないという立場だ
しかし法務大臣が死刑を執行しなかった
できなかったことには本作は一定の力を発揮したのかも知れない
これもまた映画の力だ
さすがは熊井啓監督だ
最後に長年なかなか観ることのできなかった本作が配信で手軽に観れるようになったのは大きな驚きでした
関係者の皆様のご尽力に感謝致します