劇場公開日 1938年9月29日

「芸と恋」鶴八鶴次郎(1938) 文字読みさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0芸と恋

2023年4月2日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

1938年。成瀬巳喜男監督。新内節の若手・鶴八鶴次郎は実力と人気を兼ね備えてついに名人会に出場する機会が訪れる。もともとは鶴八の母が鶴次郎の師匠かつ共演者だったため、幼いころからよく知る二人だが、癇癪もちの鶴次郎に対して鶴八も負けん気が強くてけんかが絶えない。ある日、鶴八の後援者である若旦那がやってきたことをきっかけに大喧嘩となって、、、という話。
長谷川一夫と改名したばかりの林長二郎と東宝に入ったばかりの山田五十鈴が初めてコンビを組んだという伝説の作品。けんかしては仲直りする芸人カップルの様子をテンポよくリズミカルに90分で描く。物語の時間はおよそ2年間。たった90分とは思えない濃厚な2年間が描かれる。展開が速い(カットが速い)にもかかわらず一義的な解釈を許さない豊かな余情が残る。芸の向上を求めているのか異性として求めているのか本人たちにもわからない微妙な空気がすばらしい。
木漏れ日の中での会話。開け放たれた障子、窓、玄関。細かく変化する山田五十鈴の髪と長谷川一夫の声が大きな意味を生み出し、変化に乏しい両者の表情が微妙な差異を浮かびあがらせる。名作。

文字読み