妻(1953)のレビュー・感想・評価
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モノローグで始まり、モノローグで終わる夫婦
1953年。成瀬巳喜男監督。しがないサラリーマンの夫と専業主婦の妻は結婚十年。持ち家だが使わない部屋は下宿に貸している。お互いへの愛情を失いかけている二人だが、夫が会社のタイピストの女性と気持ちを通わせ始め、やがて真剣な恋へと至っていくと、妻は動揺しはじめて、、、という話。
なし崩し的に浮気するものの離婚にまでは踏み込めない夫と、気持ちが離れた夫と一緒にいることはできないと思いつつも別れる決断はできない妻。その周囲には一人で生きていく女性や夫に愛人を作られて自殺までする妻が配置されているのだが、中心の二人はずるずると現状を維持し続けていく。人物たちの気持ちの揺れ動きを細やかに追っていくと決定的な瞬間などはありえないというかのように事態はゆるゆると進行し、気づいたときにはもう決定的な瞬間は通り過ぎている。しかし、それにまったく気づかないかというと、目の前を電車が通り過ぎたり、真横を電車が通り過ぎたことを示す光の明滅があったりして、たしかに何かが起こっていることは感知できるようになっている。
大阪で夫が浮気相手と本当に関係を持ってしまった後でその連れ子と遊ぶ様子に表れるやるせなさ、妻が意を決して夫の浮気相手を訪ねて会話する時に自分で自分を煽っていく高揚感。すばらしい。
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