「五感で感じる映画」ツィゴイネルワイゼン 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
五感で感じる映画
前回の「夢二」(1991年)に引き続き、鈴木清順監督生誕100周年記念でデジタルリマスター版が上映された「ツィゴイネルワイゼン」(1980年)を鑑賞。「陽炎座」(1981年)と併せて、「大正浪漫三部作」と言われる3作品の第1作目でしたが、先に観た「夢二」に比べると、色彩の点でやや暗い感じでした。ただ冒頭から音感に訴えて来る部分があり、不気味さはかなりありました。また、大谷直子と大楠道代の2人の女優が、これでもかと妖艶な演技を魅せてくれたので、エロティシズムとホラーの要素が見事なまでに同居する「大正浪漫」の世界を堪能できました。
いずれの作品についても言えることですが、場面がいきなり飛んだり、セリフが良く聞き取れなかったりで、ストーリー全体を詳細に把握することは結構難解なんですが、理性で理解するというよりは、視覚や聴覚から身体に染み込んでくる情報を浴びる感じの作品であり、そうした意味で非常に芸術性が高いというか、独特の世界観を持った作品だったと感じたところです。
本作の見せ場は、何と言っても大楠道代演じる周子が、原田芳雄演じる中砂の目玉を舐めるシーン。目に入ったゴミを舌で取るって発想が凄い!勿論現実のシーンではなく、幻想のシーンだったけれども、セクシーなんていう軽い言葉では表せない、もっと深い情念に訴えて来る映像で、実に耽美的というか、退廃的というか、非常に印象深く、ゾクゾクする場面でした。
あと、大谷直子演じる園が、こんにゃくをちぎり続けるシーンも印象的。食べる量を遥かに上回る量のこんにゃくをちぎり続ける姿は、不気味だけれどもなんかそそられるのが不思議でした。
また、題名にもなったサラサーテ作曲の「ツィゴイネルワイゼン」。サラサーテ自身が演奏したものを録音したレコードに、サラサーテの喋っている声が入っていることが冒頭のシーンで出て来ます。しかし結局これが何と言っていたのか分からず仕舞い。しかも中砂の死後、彼の後妻になった小稲が、このレコードのことやドイツ語の難し気な本のことを知っていて、しかも流ちょうなドイツ語でそれらを返してくれと青地に迫るシーンなども、一体何が現実なのか虚構なのか判別しかねるものでした。きっと狸とか狐に化かされた時は、こんな感覚なんでしょうね。
そんな訳で、五感に迫って来る大正浪漫を堪能できた本作の評価は、★4とします。