地の群れのレビュー・感想・評価
全5件を表示
被差別者間の凄まじい争いの描写に、製作者たちの真摯さ潔さを感じた。
熊井啓 監督による1970年製作(127分)の日本映画。配給:ATG、劇場公開日:1970年1月31日。
原作は井上光晴の「地の群れ」(未読)。脚色にも加わった井上は、映画でも舞台となっていた佐世保育ち。共産党に入党していたが、細胞活動内情を発表し指導部より批判され、除名されたらしい。映画にも、農村工作活動の中、友人を失くす描写が登場していた。
朝鮮人、被爆者、被差別部落民という日本における差別構造を、抉る様に描いていて圧倒されてしまった。主人公鈴木瑞穂演ずる医師の宇南は、部落出身者で、父親を原発で無くし、原発投下直後の長崎を彷徨した人間。朝鮮人の娘を妊娠させたが知らんぷりで、彼女を捨て死に至らしめた過去を有する。そうした罪深い過去のせいか、妻が妊娠しても何度か堕ろさせて妻に恨まれてもいる。
そんな彼のところに診察に来た被差別部落の娘が、紀比呂子演ずる徳子。彼女は被爆者集落の手にケロイドが有る若い男に襲われ、その証明書を書いて欲しいと言う。宇南はそれを断わったが、徳子は単身被爆者集落に行き、その相手の家に乗り込む。強い意志を感じさせる紀比呂子の眼差しの強さ凛々しさに、驚かされた。当時の人気TV「アテンションプリーズ」主演女優とは全く別人の様でもあった。
彼女は無事であったが、母親北林谷栄も被爆者集落へ抗議に行く。そして、売り言葉に買い言葉で「あたし達がエタなら、あんた達は血の止まらんエタたいね。あたし達の部落の血はどこも変わらんけど、あんた達の血は中身から腐って、これから何代も何代もつづいていくとよ。ピカドン部落のもんといわれて嫁にも行けん、嫁もとれん、しまいには・・・」なんて言ってしまい、暗闇の中で多数の投石を受けて惨殺されてしまう。被差別者間の救いも無い様な凄まじい争いの描写に、声を無くしてしまった。
遠慮無しにあからさまに、日本における差別の実態を突きつけていることに、製作者たちの真摯さ潔さを感じさせられた。残念ながら、フタをされているが、今も本質は変わっていないとも感慨も覚えた。
監督熊井啓、脚色熊井啓 、井上光晴、原作井上光晴、製作大塚和 、高島幸夫、撮影墨谷尚之、美術深民浩、音楽松村禎三、録音太田六敏、照明鈴木貞雄、編集丹治睦夫、スチル墨谷尚之。
出演
鈴木瑞穂宇南、松本典子英子、麦人信夫、紀比呂子徳子、奈良岡朋子光子、佐野浅夫勇次、
北林谷栄松子、宇野重吉宮地、岡倉俊彦真、水原英子宰子、原泉金代原、坂東調右衛門駒一、村田吉次郎仲川、杣英二郎国領、市川祥之助男患者、市川岩五郎小松、中村公三郎ケロイドの男、笠中村鶴蔵、瀬川菊之丞宇南の父。
今はもうないけど佐世保市の図書館の前の橋の名が金子光晴橋だった。好...
今はもうないけど佐世保市の図書館の前の橋の名が金子光晴橋だった。好きな詩人の名だったので覚えていたのだけど佐世保の人だとは思ってなかった。
映画の当時もそうだけど、佐世保は戦後の日本の臭いがずっと残り続けていた。現在還暦の私が小四の頃まで被差別地区は通学路だった。特に差別はなくてその地区の子供とも普通に遊んでいた。親から止められたりとか全くなかった。
花街育ちだったので夕方5時には必ず家に帰った。夜は町の雰囲気がガラリと変わる。
全学連の抗争の話も聞いた。全学連崩れが四ヶ町の真ん中で顔を隠して自分らの正当性と正義を語るのを呆れてみていた。
この映画が伝えているものは話には聞いている。
多分子供だったから作者の語るこの映画の趣旨とは全く違うものを見ていたのだと思う。
清濁併せのむ防衛の町の現実がここにある。令和の今はもうほとんど少なくなったが、その影響は昭和の間までずっと残り続けていた。私の町は70年代まではまだ占領地だったところが多かったし地位協定下のトラブルもそこかしこで聞いている。
ただ、この戦後の臭いのきつい汚い映画でありながら私には、ノスタルジックに思えてしまう。この海岸線もこの山も今はもうない。
たまたま映画好きの友達に教えてもらった普通だったら手を出さないタイプの映画だったのだが、見ている現実が違うと見えるものが違うのだろうな。
『地の群れ』を知って、こういう話こそ現代の日本で映画にすべきではないかと思ったが、この作品を観て、それは甘いし浅い考えだ(だって絶対無理!)と認識したほど衝撃的。
(原作未読)①当時(1969年)でも映画化は困難だった様だ。何せ熊井啓監督が私財をなげうって製作費に充てたとの事。確かにこんな儲かりそうもない問題作は誰も作りそうにない。②『地の群れ』の原作は廃版になっている様で、amazonで検索しても一番安い中古本でも数千円するので購入は諦めた。せめて映画化したものを観ようと調べたらamazon prime videoで配信していたので鑑賞した次第。③(大平洋)戦争中~戦後の回想シーンを織り混ぜながら、朝鮮戦争後の米海軍基地のある佐世保を舞台に、被爆者問題(及び長崎原爆)・被差別部落問題・在日朝鮮人問題を扱った本作、なるべく問題提起・政治色は避けてレビューしたい。④
差別からはいいことなど、生まれない
見たくないものを、真っ向からぶつけてくる熊井監督の作品を
レンタル屋で見つけました。
部落の人々や、原爆症で苦しんだり、原爆によって醜い姿になった人々などが
差別を受け、そしてそこで事件が起こり、憎しみが起こり、負の連鎖が
起こります。
悲しい事件が起こるのですが、その発端は原爆なのです。
そして差別を受けてる部落の少女が酷い目に合い、そして怒りは
さらに飛び火していきます。
人間の心の奥にある、差別意識や怒りや憎しみをえぐり出した作品です。
そういう心を私たちは奥に秘めていると言うことを
忘れてはならないと思います。
全5件を表示