劇場公開日 1983年7月16日

「薬師丸ひろ子が国民的アイドルの頂点を極めた作品」探偵物語(1983) kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0薬師丸ひろ子が国民的アイドルの頂点を極めた作品

2022年1月11日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

WOWOWの放送にて。
この映画は、薬師丸ひろ子主演4本目(角川映画ブランドでは3本目)にあたるが、前作『セーラー服と機関銃』で社会現象とも言える爆発的アイドル人気を示した彼女が、受験のため1年強休業した後の復帰作ということもあって、前作を上回る記録的興行成績を上げた。原田知世の映画デビュー作『時をかける少女』が併映だった。
プロデューサーの角川春樹は、赤川次郎に薬師丸ひろ子主演で映画化する前提で原作小説を書き下ろしさせた。彼女の休業中、『セーラー…』の再編集版(完璧版)を劇場公開するなどしてファンのフラストレーションに対応していて、ついに、大学の合否に関係なく入試終了後にクランクインすると発表するに至った。
また、監督の根岸吉太郎は『遠雷』で高く評価されメジャーデビューが期待されていて、アイドル映画を撮るということが別の視点で注目されてもいた。
個人的には、主題歌を大瀧詠一が手掛けたことにも期待があった。

松田優作の「探偵物語」といえば、'79〜'80に放映された人気テレビドラマだ。なぜ同じタイトルにしたのか、赤川次郎が執筆している段階では松田優作の出演は決まってはいなかったのだろうか。
女子大生直美(薬師丸ひろ子)のボディーガードを依頼された興信所の探偵辻村(松田優作)が、ヤクザの親分の息子が殺された事件に巻き込まれ、直美が辻村と真犯人探しに乗り出すというストーリで、薬師丸ひろ子は探偵役ではない。
直美は豪邸に家政婦と二人で暮らしていて、アメリカにいるらしい父親が何者かは語られず、興信所への依頼主が誰なのかは分からないままだというのが赤川次郎原作らしいところ。

相米慎二が『セーラー…』で風祭ゆきの濡れ場を挿入したように、根岸吉太郎も秋川リサや中村晃子の濡れ場を入れている。
東宝のアイドル映画だったら入らない場面だと思われ、ヤクザが絡む物語ということもあって配給した東映のカラーを感じる。(東映が要望したわけではないだろうが…)
さすがに薬師丸ひろ子自身の濡れ場はないが、根岸吉太郎はラストシーンに松田優作との濃厚なキスシーンを用意し、彼女が見事に対応したことがファンにはショッキングでもあった。
原田知世は『早春物語』で林隆三とのディープキスを前歯を閉じて拒絶していた。もっとも、薬師丸ひろ子はこの撮影時18歳で、原田知世はその撮影時まだ16歳だった。

本作でも薬師丸ひろ子は感性で演じる天才肌の片鱗を見せている。
事件のことを知った直美が辻村のアパートを訪ねる場面、辻村にドアの外で追い払われた直美が帰れずにいてヤクザ達の車を見つける。手持ち無沙汰で手すりから身を乗り出すその仕草と表情。
キャバレーで、憧れている先輩の彼女にイヤミを言われて辻村の酒を一気に飲むシーン。
これらは、ウマいヘタでは評価できない演技の域を越えたものだ。

根岸吉太郎は、全体的にはサスペンスコメディーとして無難な演出をしていて、職人的な技量を示したが、空港でのラストシーンでは、少女体型の薬師丸ひろ子と身長差のある松田優作が柵越しで抱きしめ合う窮屈なラブシーンを数カットの寄りで見せた後、佇む松田優作と手を降って離れていく行く薬師丸ひろ子を引きの映像でワンフレームに収めた芸術的な演出を見せている。

kazz