旅路(1953)のレビュー・感想・評価
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価値観の違う二人の主人公の生き方
この映画の主人公は、岡本妙子(岸恵子)と津川良助(佐田啓二)。殆どのものの考え方が相反する二人が、一緒に生活することは所詮無理なことであった。
津川は戦争を体験しているため、人生をギャンブルの如く考え、その日の生活が良ければそれで良しと考えるブローカー。金銭感覚も杜撰で、返すべき大金も、自分で必要なら一時無断拝借し、後日返済すればよいと考える自己本位。
一方の妙子は、鎌倉に邸宅を持ち、高利貸しで一代を築いた岡本素六(笠智衆)の姪で、東京でタイピストをしている独身女性。彼女は結婚の願望はなかったが、津川と知り合い、彼の積極的なアプローチで、結婚を考えるようになる。
然し、両者の金銭感覚は水と油のようで、妙子の望む「狭いながらも楽しい我が家」のようなことは、実現しそうにない。
ある取引で、津川は受け取った金銭のうち20万円を使ってしまい、返済の予定がつかず、田舎へ行って工面しようと考える。
そのことを知った妙子はいたたまらず、鎌倉の叔父に工面を頼みに行ったが、叔父は不在だった。そこにいたのは、叔父が山で自殺しようとした瞬間を助けた阿多捨吉(若原雅夫)が、時々仕事をするためにこの家を訪れていた。この日も、丁度阿多が仕事をしていたが、別の部屋へ行った時、目にした机にある札束を、誰にも告げず、持ち去ってしまう。その足で、妙子は津川の借金を返済に、仕事のパートナーの岩村夫人(月丘夢路)を訪ね、持ち去った30万円を返済。これで、津川の借金は完済した。
妙子は、生き方の違いをはっきり自覚して、別れることを決め、津川にそれを伝えるため、彼の田舎へ向かった。
ストーリーは簡単で分かり易い。この物語には、もう一人の男性、阿多が登場する。内気であるが妙子を心から思う男性。学校の先生で、素六にとても信頼されている。30万円の札束は阿多が机に置いたものだった。
阿多の出現で、妙子は男性を見る目や人生観を学んだのではないだろうか? だから、いつまでも津川を追いかけず、別れる決心が出来たように思える。妙子にとり良いことだったと思う。
然し、妙子が阿多と旅路の友として、一緒に生きて行こうとするのかどうかはぼかされ、余韻として残している。
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