「70年代の狂気と虚無を映し出す、ただならぬエネルギーの映画」太陽を盗んだ男 jasperさんの映画レビュー(感想・評価)
70年代の狂気と虚無を映し出す、ただならぬエネルギーの映画
家庭で原爆を作ってしまう高校教師。そんな荒唐無稽な設定にもかかわらず、リアルな空気感が漂う。劇中の描写には妙な現実味があり、「もしかしてこれは、本当に起きてもおかしくないのでは」と思わせる説得力がある。
しかし最大の謎は、彼の目的のなさだ。必死に原爆を作っておきながら、その使い道が「ナイター中継の延長」や「ローリング・ストーンズを日本に呼ぶこと」。あまりに馬鹿馬鹿しく、しかしそれがこの時代の“空虚な反抗”を象徴しているようで痛烈だった。
この映画は、70年代の社会のカオスと、それに抗う若者のエネルギーを強烈にパッケージしている。学生運動が終焉を迎え、全共闘が残した余熱が鬱屈とした虚無感へと変質した時代背景。そのなかで若者は怒りや違和感を抱えながらも、明確な敵を見失い、暴走と逃避を繰り返す。
主演・沢田研二の演技はどこか素人っぽいが、むしろその素人性こそが彼の持つ“市井のカリスマ性”を引き立てている。雑に扱われる原爆、カバンの中で揺れる放射性物質、そして逃げる警察とのカーチェイス。すべてが緊張感と滑稽さを共存させ、ただの娯楽作には終わらない。
自分自身はこの時代より少し後の“しらけ世代”に育ったが、この映画が描く混沌や怒りには、不思議と共感してしまう。
今、社会の理不尽さに対して怒りを燃やすことは少なくなったかもしれない。しかし、だからこそこのような作品が、自分のなかの熱を呼び覚ましてくれる。
映画を観終えた後、「このまま、何もしないで生きていていいのか?」と自分に問いかけたくなるような、静かだが強い衝撃を受けた一本。
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