「ゴジラファンも必見!東宝3大怪獣映画初のカラー作品にして最もリアルな設定を狙った秀逸な特撮作品、自衛隊のM24チャーフィー戦車市街地走行実写映像など見所満載!」空の大怪獣ラドン 菊千代さんの映画レビュー(感想・評価)
ゴジラファンも必見!東宝3大怪獣映画初のカラー作品にして最もリアルな設定を狙った秀逸な特撮作品、自衛隊のM24チャーフィー戦車市街地走行実写映像など見所満載!
”怪獣”というフィクション作品ながら「単なる御伽噺ではなく、科学的な裏付けと真実性を持たせた嘘でない作品を目指した」というだけあって、東宝特撮3大怪獣(ゴジラ・モスラ・ラドン)の中でも一番リアリティを感じさせる仕上がりになっている。
怪獣映画の金字塔初代ゴジラ公開当時、本当にゴジラが銀座を破壊したと言う人がいたと言うのも頷けるが、当時の批評家筋の評判は良くなかったらしい。やはり「怪獣映画なんてゲテモノ」という偏見が抜きがたくあったと言う、だからこそこの「ラドン」が目指していたものはジュラシックパークのようなリアルな恐竜に近い存在だったのではなかろうか。
その実、冒頭の炭鉱の中に現れる古代トンボのヤゴ・メガヌロンはモスラより遥かに残虐で生々しくスリリングな存在だし、そんなメガヌロンを捕食するラドンは白亜紀の翼竜「プテラノドン」の変異という設定で架空の怪獣ではあるものの、よりリアルな恐竜に近い存在として描かれている。
そして、そのリアルさを求めた元はやはり怪獣映画初の総天然色という事があったからかと思う。東宝としてもカラー特撮は既に「白夫人の妖恋」で経験済みとは言えオールセットの白夫人や夜景シーン中心の「ゴジラ」と違い、総天然色としてカラーが映える陽光の下のロケや特撮も昼間のシーンが多く、初ゴジとはまた1段階異なるスタンスの撮影にその意気込みが感じられる。そして、この作品で培われたモノクロ作品には無かった総天然色としての彩色の経験値は、その後の東宝作品や邦画に大きな影響を与えたに違いないと思うと、どのシーンのどのカットも見逃せない。
特撮ではなんといてっも空中シーン、ピアノ線による初操演にも関わらず実写と空撮のカット割りは秀逸で今見ても面白いし、福岡の街並みのミニチュアのクオリティも半端ない、当時のカラーフィルムの感度が低い中で現実の街とミニチュアの街を如何にリアルに見せたかと思うとまさに職人芸の世界。そしてこの作品では空・海(水)・火(炎)などのカラーシーンも勿論のこと、印象的な特撮シーンとしてまだ東宝大プールができる前に9間(約16m)近い橋をプールにかけてラドンの風圧で壊したり、クライマックスの阿蘇の噴火シーンは実際に製鉄所から借りた溶鉱炉で溶かした溶鉄を流してオープンで撮影とか、今だったらまず撮影不可能なのでは?と思う映像はやはり特筆もの。
ロケで言えば阿蘇には炭鉱は無かったが鹿町炭鉱(「日鉄北松鉱業所」)で撮影された炭鉱シーンはどこまでがロケなのか知りたいくらいリアル、又おろらく現在は無い阿蘇観光ホテルらしきホテルでの撮影シーンに映るchevrolet fleetline 1949がカッコイイ(因みに若いカップル役は中田康子・大仲清二・支配人:手塚勝巳=メガヌロンのスーツアクター三人の内の一人※メガヌロンは丈15尺あったので三人で操演他:中島春雄・大川時生)又ゴジラスーツアクターでも有名な中島春雄はラドン役の他防衛隊幹部としてラドンが西鉄を風圧で吹き飛ばした後63’35”にセリフがあり貴重なシーンとなっている。
この作品の防衛隊(自衛隊)シーンはその後のゴジラ作品等東宝自衛隊シーンにも数々流用されているが「M24チャーフィー戦車市街地走行実写映像」は恐らくこの作品だけの貴重なシーンではないかと思われ何れにせよ東宝特撮の醍醐味満点な一作である。