「今こそ本作のリメイクが必要な時だ」世界大戦争 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
今こそ本作のリメイクが必要な時だ
1961年10月公開
同年7月がモスラ公開、本作の後翌3月が妖星ゴラス、8月にはキングコング対ゴジラと東宝特撮は量産体制でフル回転していたことが伺える
クライマックスの東京を含む世界の主要都市が核攻撃を受け壊滅するシーンは余りにも有名だ
本作を観たことのない人でも使い回しされたウルトラセブンでそのシーンは観ているはず
都市の破壊シーンとだけでなく、戦闘機編隊が数機づつ別々の旋回を行うシーンなどは目を見張る出来ぱえ
ピアノ線特撮と揶揄などできない
まるで後年のモーションカメラで撮ったような滑らかな動きだ
世界のどこに当時これ以上の特撮を撮れるスタジオがあっただろうか
間違いなしに当時世界一の特撮シーンだ
米ソの原水爆開発競争と冷戦の激化がもちろん背景だ
同年8月にベルリンではベルリンの壁が突然作られ、目に見える形で冷戦が激化を始めたばかり
丁度1年後の翌年10月に発生するキューバ危機を先取りしているほどタイムリーだ
核戦争とは何かを具体的に可視化したのは本作が初めてだと思う
博士の異常な愛情、未知への飛行は共に1964年だ
しかし都市が核で破壊されるところを克明に描くシーンはどちらの作品にもない
当時は本作にしかないモチーフであり映像なのだ
本作では戦術核が38度線で使用されたシーンで炭化した人間まで見せるのだ
それに匹敵するシーンを本作以外の作品で観る事ができるのはターミネーターまで待たなければならないのだ
つまり当時は画期的かつショッキングな映像だったはずだ
海外市場への輸出も視野に入れて製作したと思えるシーンも多い
輸出サンプルの映像を観た海外の人間は腰を抜かしたことと思う
海外版の予告編もあるが、1964年に配給権が買われ1967年公開を目指して米国側で短縮版を製作したようだが劇場公開は結局なく、1985年にVHSとして発売されたにとどまるようだ
21世紀の人間が観ても古さはない
逆に本作は60年後の現代を舞台にしているのではないかと思える程だ
東西両陣営でそれぞれ起こる偶発的な核戦争の危機のお話は実は予言だ
現実でも機器の故障で敵の核攻撃と誤認して自国の核ミサイルを発射寸前にまで行ったことは、米ソ共にあるのだ
米軍は本物の水爆を誤ってスペインの陸地に落としたことすらある
幸い起爆こそしなかったが……
多分ソ連軍だって表沙汰になってないだけで同様の事故はあるのではないか
出てくる地名
南シナ海、シリア、アレッポ、38度線
60年経過しても何も変わってはいない
1秒程度の間隔で連続発射される弾道ミサイルのシーンは、実際の北朝鮮のミサイル発射映像と見がまう程だ
東京に核ミサイル飛来を探知するのは東京ミサイル防衛司令部だ
街の雑踏の音は今の六本木の防衛省にある雰囲気だ
当時はまだ自衛隊が発足してまだ7年
もちろんのことミサイル防衛なんて言葉すら無い時代だし、対処する組織もあるわけもない
劇中では、落下まであと124秒、落下予想地点東京中心部を探知はできるが、あとはカウトダウンしかなすすべもない
現代ならJアラートを発令して国民に避難を呼びかけ、迎撃ミサイルを打つことはできる
なんとかそれくらいの防衛力は整備された
しかし何発もミサイルが来襲したり、特殊な弾道や欺瞞弾頭で迎撃ミサイルが外れるかも知れない
政府はパニックを承知で、核ミサイルが日本に確実に飛来する状勢ですと正直に国民にアナウンスできるだろうか?
軍事力の行使を禁じられており、唯一の被爆国である日本が出来ることは何か?
それはこのような映画を製作することだと思う
一体どうなってしまうのか
徹底的にリアルに具体的に観せて、人々をたじろがせる映像を撮ることだと思う
核戦争は絶対に防がなければならない
ならばどうすのか、軍事力を禁じられていること自体が国民の安全に取って果たして本当に正しい事なのか?
そこまで国民が徹底的に考えるきっかけになるはずだ
今こそ本作のリメイクが必要な時だ
現代の方が自主規制が強くて製作すらできないかも知れない
しかしそれは同じ、当時でも製作は困難であったはずだ
先人はそれを敢然と突破して本作を残したのだ
21世紀の映画人も奮起して頂きたいものだ