「日本映画屈指の名シーンに泣く!」砂の器 しゅうへいさんの映画レビュー(感想・評価)
日本映画屈指の名シーンに泣く!
Blu-ray(デジタルリマスター2005)で2回目の鑑賞。
原作は未読。
本作は決して、単なるミステリ映画のまま終わらない。事件の奥底に秘められた物語が、痛切なテーマ性を持って観る者に鋭く突きつけられる。刑事たちが靴底を擦り減らし、文字通り日本中を駆け巡った執念の捜査の果てに突き止めたのは、ひとりの青年が背負った壮絶な「宿命」の物語であった。
犯人の動機ははっきりと劇中では明言されない。ラストシーンで、交響曲「宿命」をバックに綴られる父子の苦難の道のりがその解釈を促す。小説では不可能な映画ならではの表現手法で、心が抉られるほどの哀切が浮かび上がって来た。
日本の四季の風景と共に映し出される旅路は、父子が辿った過酷な時間の長さを表しているようで、風景の美しさが残酷さを余計に引き立てる。日本映画屈指の名シーンだろう。
己が過去の露見を恐れたがために、殺人を犯してしまったと思われる犯人だが、それほどまでに彼を追い詰めてしまった原因は、子供の頃に経験した壮絶な差別と偏見故だと思う。
犯行を決断するまでに、その胸の内には様々な想いが去来したに違いなく、一言で言い表せないような感情の複雑な交錯があったのだと想像すると、心が押し潰されそうになった。
何年、何里にも渡る過酷な経験を共有したからこその、切っても切れない「父子の絆」と云うか、ふたりの繋がりの切ないほどの強固さに、強く胸が締めつけられた。
[追記(2021/05/06)]
善意は時に、された側にとっては、とてつもない悪意となり得ることを、初めて気づかせてくれたのが本作である。
決して二元論で片づけられない人間の心の本質に迫り、何度観ても深く考えさせられる名作だと改めて思った。
[以降の鑑賞記録]
2021/05/06:Blu-ray(デジタルリマスター2005)
※修正(2025/05/06)