「黒沢清監督・幻の初メジャー作品」スウィートホーム pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
黒沢清監督・幻の初メジャー作品
監督は伊丹十三ではなく「黒沢清」です。間違えられやすいけど。
当時、CMでも随分流れていたし、誰でも知ってる有名作品のような気でいたが、実はすっかり知る人ぞ知るマイナー作品になってしまっているのね。
ヒルコが塚本晋也監督の初メジャー映画ならば、こちらは黒沢清監督の初メジャー。
(当時はすっかり、伊丹十三による伊丹十三の為の映画、だと思い込んでいたがw
大人で良い役なのは伊丹十三(山村)と、リア奥さんの宮川信子(秋子)だけだもん。
当時、人気ロックバンド「レベッカ」で一世風靡していたNOKKO(エミ)も、割と好演している。)
「マイナー」だとか「幻の」になってしまっているのは、ビデオ化に際して若き日の黒沢監督が伊丹プロを提訴した為。
黒沢氏の敗訴によりビデオ化は是認されたが、結局どこもDVD化していない。
ついでに黒沢氏を使おうとする映画会社も無くなっていく。「面倒くさい奴」というレッテルを貼られたのだろう。
ビデオカセットは当然とっくに絶版だし、VOD調べてみたけど、少なくとも今日はどこも扱ってないね。
しかしだね。NHKが「世界のクロサワ」とか放映するからてっきり黒澤明かと思えば黒沢清だった。
まぁ、それが「令和」って時代なのかな。変化は受け入れていくべきか・・・。
黒沢ホラーの原点という事になるが「黒沢監督らしさ」の片鱗はすでに打ち出されている。
一つ目は「廃墟」
黒沢監督がピーター・カッシングのフランケン・シュタインやクリストファー・リーのドラキュラに代表されるゴシックホラー好きである事は間違いない。
「廃墟となった田舎の洋館」(しかも城レベルにゴージャスな)が、不穏さ・不気味さを増幅する装置として設定されている。
二つ目はビジュアル重視の美術やセット。「こんな家、日本にある?」なんてリアリティ追求の野暮は言いっこ無し。今ならダーク・ファンタジーと言った方がわかりやすいかもしれないが、黒沢作品は敢えてゴシックロマンと呼びたい。
三つ目は「唐突な恐怖と死」
早めに1回、ゴアシーンを盛り込むことで「いつ、恐怖シーンが来るかわからない!」という緊張状態に観客を持ち込む事を明確に狙っている。
これだけ視聴困難なレア作品になっちゃったなら、あらすじも書いた方がいいのかなぁ?
いや、検索すればあらすじ書いてるサイトがHITするから知りたい人はそちらをどーぞ。
私は「ファミコンソフト」を何度も何度もクリアしたから、あらすじは忘れようにも忘れられないくらい覚えています(笑)
最近のJホラーと違い、バッドエンドではないから、嫌いじゃない。
とりあえず配役書くね。
田口、無神経で浅はかなトラブルメーカー。若い女好きでアスカを気にしている。
アスカ、美人だが、プライドが高く気難しい。やや高慢な印象も。
和夫、気弱で優柔不断。鈍感なくせに頑固。妻を早くに亡くし、娘のエミと2人暮らし。
秋子、聡明で謙虚で勇気と行動力を兼ね備える素晴らしい女性
エミ、秋子を慕い、父と秋子が互いに好意を抱いている事を歓迎している。
山村、何でも知っている豪胆で頼りになる老人
はい、ここで問題です。
「最初のゴアシーンの餌食になるのは一体 誰でしょう?(笑)」
本作で特筆すべきは「エクソシスト」などの特殊メーク第一人者、ディック・スミスにSFX指揮を引き受けて貰えた事でしょう。
間宮夫人の特殊メークは四谷怪談のお岩さんがモチーフ。中川信夫監督の名作「東海道四谷怪談」をディック・スミスに観せて、練り上げていったそうだ。
山村役は、てっきりプロデューサーだからだと思っていたが、真相は「伊丹十三がスミスさんにメイクして貰いたかった」という事らしいね(笑)
あの伊丹十三が、はにかんだようにもじもじと黒沢監督に告げたようだから微笑ましいw
脚本に対しては
「地下室に向かう前に、和夫が拾った土偶を返していれば、山村は死なずに済んだんじゃないの?」とツッコミ入れたものだが、それだとメイクして貰えなくなるからダメなんだな?(爆笑)
ディック・スミスの手がけた特殊メーク作品を挙げれば
「真夜中のカーボーイ」「エクソシスト」「ゴッド・ファーザー(マーロン・ブランド)」「タクシー・ドライバー(ロバート・デニーロ)」と錚々たる名作揃い。
「アマデウス」の老サリエリでは、アカデミー賞のメイクアップ賞を受賞する。
この中に「スウィートホーム(日本)」って並んじゃうんだから、ちょっと凄くないか?
一度メークを施したら、必要なシーンは出来るだけすべて取り終えてしまわねばならない。役者にもスタッフにも大変な撮影である。
今ではすっかりCG技術に置換されてしまった分野だが、丁寧に作り込まれたSFXメーク技術ならではの質感を味わって欲しい。(特に山村さんw)