「「蛇の頭」を切られた、若手組員という蛇の尻尾。」仁義なき戦い 頂上作戦 すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「蛇の頭」を切られた、若手組員という蛇の尻尾。
◯作品全体
広能たちの世代が幹部として立ち回る4作目「代理戦争」。広島抗争が激化する中で事態を収拾するのも広能たちの世代だ。しかし本作「頂上作戦」では、本編でも例えられた「蛇の頭」である広野たちが不在になり、「尻尾」側である若い力の暴走が印象に残った。
謀略と衝突、という視点では今までの作品はほとんど同じような出来事を繰り返しているシリーズだが、物語の中心となる存在が個性的で、作品ごとにその存在が区別化されているのが面白い。1作目では真っ直ぐな青年・広能の実直さを、2作目ではなにも持たない若者の悲哀を、3作目では抗争の中心で動き回るヤクザの姿を、4作目ではヤクザの斜陽と若手の暴走を中心に多くの時間を割いている。本作は若さの暴走、という意味では2作目に近いが、2作目はどちらかというと若い帰還兵の悲哀物語という側面が強かった。こうしてしっかりと差別化できているのは、登場人物に対する高い描写力があるからだと感じた。
本作でいえば、物語の中心に居るのは広能、山守、そして若手組員だ。山守の個性や山守の芝居は少し凝り固まった感はあるが、組員への態度や金への執着の描写はブレず、それでいて強面がひしめく画面のなかで異彩を放ち続けているのはさすがだ。
広能の描写もとてもよかった。組員が増え、立派な事務所を構えた広能を更に肝の座った人物として描いてもおかしくないが、打本会で銃口を突き付けられた時の驚き方やトラックに置き去りにされた時の反応が、組長・広能から逸脱していて人間味があった。
そしてなにより、本作は若手組員の描写力が素晴らしかった。若手組員とは言っても松方弘樹演じる藤田のようなメイン級ではなく、打本会の組員や広能組の組員の描写だ。彼らは登場回数が多いわけでも、セリフが多いわけでもないが、短いシーンで太く印象を残す。打本会の福田は情婦・三重子との邂逅を通して山守側の早川組と衝突する火種を作るが、「女を抱いて、腹を括る」というくだりは、今までのシリーズ作品でも繰り返しあって、悲劇を生み出す構図として活かされる。シリーズの文脈に沿って短い時間で「引き金」を作る役割として、若手の物語が効率的に使われていた。
山守を襲った打本会の組員が間違って武田の車に乗ってしまうものの、武田の「呉越同舟」という言葉で助かる、というシーンもよかった。その後に打本会のメンツでラーメンをすすり再び暴れ回るシーンは、短いシーンだったものの若手組員の日常と「男にみせる」の鋭角化の描写として素晴らしかったと思う。
広能組の組員も、今までは広能の後ろについてまわるだけだったが、ここにきて広能への忠義を示すシーンを挿れているのが良かった。広能組が出来て早々にこういったエピソードがあると逆に信頼関係が嘘くさくなる見えるが、本作はシリーズを通して一緒に居たというエビデンスがある。広能の優しさ、みたいなエピソードを強引にいれなくとも、時間を費やすことで生まれる説得力もあると感じた。
抗争の混乱と終わりの物語を主役級の力だけでなく、シリーズ通して訴えてきた「若者の犠牲」にスポットをあてて語る軸のブレなさに膝を打った本作。
キャラクターの魅力の表現も含め、一貫し衰えを見せないシリーズ作品だ。
◯カメラワークとか
・ラストの広能と武田のシーンが良かった。偉くなった二人が、薄い草鞋一枚だけになって狭い廊下で並ぶ。仁義を通してきた二人がなにも残せず去っていくような寂しい演出だった。
◯その他
・槙原とか松永とか、主要キャラがひっそりと居なくなってしまうのが寂しい。視聴者がすべてを把握できない感じが、逆にリアルだ。