仁義なき戦いのレビュー・感想・評価
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ときおり広能や坂井が見せる、「あの頃」への執着。
◯作品全体
ヤクザ映画って策謀と二律背反になってる突拍子のない行動とか、やけに思い切りの良い思考がコントラストになってることが多い。それがちょっと嘘くさく見えて、行き過ぎるとギャグっぽくも見えちゃう気がする。
本作もやっぱりそういう部分はあるんだけど、最後に「どうしてこんなことになってしまったんだろう」と考える広能と坂井のシーンはすごく等身大で、良いなと感じた。ボタンの掛け違いと意固地になってしまった自分を振り返る瞬間、肩書とかは横に置いて一人の人間に帰るような。今までも本作は何度も見ているけれど、今回はそんな本音の溢れる部分が刺さった。
本音が溢れる瞬間には旧友との関係性があるのも良い。見返せば見返すほど冒頭の闇市で暴れまわる、チンピラだったころの広能たちのフラットな関係性が微笑ましくて、広能たちにとっても大事な記憶だったんだなっていうのが分かってくる。そうでなければ袂を分かったはずの新開とか矢野の名前を出されて前述の言葉を口に出す坂井は居ないはずだ。
広能の曲げない感情も「あの頃」の記憶が根源にある感じがした。土居を殺して出所してきたときに誰も来てくれなかったこととか、懐からタバコを出すことに怯える坂井を悲しそうに見つめる広能には「あの頃」への執着が見え隠れしている気がする。
槙原に声をかけられて競艇場までやってきた広能が最初に口にした言葉は「他に誰かいるんか」だったけど、槙原からの頼みでなかったことを察してトーンが下がる。
『仁義なき戦い』一作目は広能に「のしあがり」とか「下剋上」みたいな臭いはなくて、純粋に周りの人達との居場所を守ってる人物だったんだな、と改めて気付かされた。
◯カメラワークとか
・冒頭、登場人物紹介の広能のカットがかっこよすぎる。昭和の邦画って役者の名刺みたいな役回りが強いから名前と顔はバッチリ見せるイメージだけど、広能のカットは米兵に向かって走る横顔をめちゃくちゃブラして撮ってる。その思い切りと疾走感が最高にかっこよかった。
・本作個人的ベストカットはラストカットじゃなくて、若杉の情報を警察に垂れ込んだことを広能にバレたときの槙原・山守のカット。広能を睨む槙原をなめて奥に山守、槙原が回り込んで背中越しに睨む。首謀の山守は動かずにらみ続けて、背中を向ける槙原が策謀があったことを暗示させる感じ。構図が最高にキマってるし、槙原役の田中邦衛の背を向けるときは素早くて睨む顔はゆっくり動かす緩急の芝居がまた最高。
ここ最近見た映画の中でベストと言えるかっこよさだった。
◯その他
・抗争の根源になってしまった上田への広能の行動はちょっとショボい。小さな火種が大きな火事になる展開は面白いけど、広能の侠気を見ていると「なんか偉そうに収めようとしてるけど、諸悪は広能がちょっとしたいさかいを我慢できなかったからなんだよな…」って常時思っちゃうんだよな。
わしら、どこで道間違えたんかのぅ
個人的には深作欣二の最高傑作。
戦後の若者たちがこの時代を生き抜こうとヤクザの世界に入って行くストーリー。時代が時代ならこういうのが当たり前だったんだろうなと感じる。
仲の良いチャキチャキの若者たちが、まさか後半は互いを的にかける事になるとは…。
冒頭は暴れ狂った流れ者に仲間がやられ、仕返しをするために広能が拳銃で流れ者を射殺。服役中に土居組若頭の若杉と兄弟の杯を交わす。出所後は土居組に迎えられ広能含め若者全員は山守組の組員となった。
そして大久保親分の策略で山守組と土居組の利権を巡る抗争が勃発。土居組長を殺すしか生き残る道はないと出所したばかりの広能に暗殺を押し付ける結果になる。広能の活躍により山守組は勢力を伸ばす事になるが、力を得た者たちはそれぞれの欲の為に内部抗争へと発展していく。
山守の掌で踊らされている事に気づいた坂井。
それでも長いものに巻かれようとする新開。
山守の腰巾着になった槇原。
ふたたび出所した広能へ容赦なく暗殺を頼み込む山守。
それぞれの思惑が交錯する中、坂井が広能につぶやく一言。
「わしら、どこで道間違えたんかのぅ」
この一言がこの物語の全てだと思います。
仁義なき戦いシリーズの原点。
次々と続編が作られ、完結編まで全て観ましたが、これが最高傑作です。
笑える。
『これからの極道は金じゃ』
正にその通り。
かなり控えめに描いている。裏社会(?)を仁義と言ったコーティングで覆って、仁義を無視した非情な世界が、日本の裏社会(?)だと言っている。途中で誰が悪者で誰が善人か分からなくなるが、出鱈目な話として考えれば、矛盾する事は無い。あとは演ずる俳優の品格を落とさぬ様に脚本が出来ていると認識すれば良い。イケメン男優が正義で、悪い奴は悪面か若しくは醜い。
広島の港湾労働者の手配師としてこの社会は設立し、芸能等の興行、賭博行為、売春組織、違法薬物販売、そして、朝鮮戦争、ベトナム戦争での特需景気で日本の裏社会(?)は発展してきた。つまり、こんな出鱈目な討ち入りは関東ては最初だけ。寧ろ、本当の悪(?)は生き残った奴等だと思う。裏社会と称したが、これが日本の戦後経済の実態なのだろう。それぞれ、生き残った者にはモデルになる人々がいるのだろうと思う。かなり、きれい事で語っているだろうが、それを踏まえて見る分には良い。
仁義とは…
そんなもの、時代に合わなくなってきたと言わんばかりに、仁義に生きる広能の周囲では裏切り行為、騙し騙され、血みどろの戦いが始まる。特に山守組組長夫妻はクズで、盃を交わしたことを良いことに子分たちから金をせしめ、文句を言うと、互いに殺し合うように仕向ける。戦後の動乱期に政治家も絡むなどリアリティがあった。今の世にも通じる世界。
【”公開当時、この映画を観た観客の多くが肩で風切る様に映画館を出て来たモノだ・・”と父が言った作品。菅原文太さん演じる広能の、自分が信じる任侠道を周囲の動きに惑わされずに貫く姿が、心に響く。】
ー 彼の有名な”仁義なき戦いテーマ”は様々なシチュエーションで、散々聞いて来たが、(多分)初見である作品。ー
◆今更ながらの感想
・え!梅宮達夫さん、そんなに早くヤラレちゃうんですか!
・ええっ!松方弘樹さんも・・。
ー それにしても、今作で準メインを演じた方々の、その後の役者人生に及ぼした今作の影響の凄さ。”役が人生に憑依する”と言う言葉を思い出す。ー
・山守組組長を演じた、金子信雄さん(私は、”クッキングのおじさん”という印象しかない・・。何故か、申し訳ないと思ってしまう・・。)の、手練手管の自分が生き残るために、盾突く子分を、平気で亡きものにする謀略家の姿。
妻と共に、涙しながら味方にしようとする見事な狸親父っぷりである。
ー 今作を面白くしている、影のMVPであると思う。ー
・菅原文太さん演じる広能は、そんな中、筋を曲げずに生きる。刑務所に入り、恩赦で出所してもその姿勢は変わらない。山守組長を見限り、任侠道を貫く。
松方さんが演じた坂井が、射殺された後、葬儀場に現れ、
”鉄っちゃん、こげなことして貰って満足かい・・。満足じゃなかろう・・。”と言って、山守組長たちの前で、香典にピストルを乱射するシーン。
腰が引けながらも、”お前・・”と言う山守組長に言った言葉。
”山守さん、弾はまだ残っとるがよ・・”と言って場を去る・・。
<ウーム、ヤクザの存在自体は全否定するが、これは当時の男性達が引き込まれたのは分かるなあ・・。
一般市民に危害を加えた工藤組長とは、大違いである。
あ、これ以上書くと消されちゃうかな・・。レビューじゃなくって・・。>
映画史に残る名作を劇場で観れた感動と興奮。
映画館は再開されても新作映画の公開はまだまだ躊躇されている状況で各館で過去の作品が再上映されていると中には"観たいな~"と思うのよりも"別に正規料金に近い金額を払ってまで過去作を観るのはどうかね?観ようと思えばDVDでも良い訳だし"と思っている御仁も多々おられると思います。
勿論、見逃した作品が映画館で観れる喜びはありますが、どうせなら何十年も前に上映されていて、リバイバル専門館でもなかなか観られない作品の上映の方がいっそ清々しい感じがします。
そんな"今映画館での観賞は無理!"って作品が上映されているとやっぱり興味はそそられる訳で、銀座の「丸の内TOEI」で「仁義なき戦い」が上映されると聞いて俄然興味が沸いた訳です。
なんでも「故・深作欣二監督生誕90年、日下部五朗プロデューサー追悼特集」の特別上映らしいのですが、なんせ60~70年に一世を風靡した任侠映画の中で大ヒットとなり、東映実録路線の中でも一際異彩を放つ「仁義なき戦い」を映画館で観れるのは映画好きにはたまらないんではないでしょうか?
と言う訳で時間を調整して観賞しました。
で、感想はと言うとめっちゃエネルギッシュ!
タイトルは仁義なき戦いですが、主人公の広能昌三は仁義に翻弄されていて、その苦悩が荒々しく迸っています。
今から47年前の作品で今の作品に比べ粗さは正直あり、臨場感を生むハンディカメラの撮影も見辛さはあり、セリフにセリフが被っていたりで聞き取れにくいのもありますが、深作欣二監督の「細かい事はどうでもいいんだよ!」と言わんばかりの様々な手法がスクリーンから迸るエネルギーとダイナミックさを生み出し、観る側を圧倒して来ます。
映画産業が熱かった時代の熱気が感じられ、劇場で観れた事に満足♪
何よりもあの東映のオープニングから始まり、「仁義なき戦い:メインテーマ」が流れるとやっぱりゾクッとざわっとしますねw
多くの方が語られている名作ですが、ヤクザ映画でありながら、優れた群集劇であり、今のヤクザ映画の基本となる物が全て詰まっています。
それぞれの個性豊かなキャラクターがシビアな極道社会に翻弄されていく中のは刹那でありますが、何処か憎めない所もあり、現在は故人となられた方々も多いんですが、スクリーンに映る方々の勢いがこれでもかとぐいぐいと迫ってきます。
主人公の広能昌三役の菅原文太さんを始め、松方弘樹さん、梅宮辰夫さん、伊吹吾郎さん、渡瀬恒彦さんと魅力的な人物が登場しますが、やっぱり山守組組長、山守義雄役の金子信雄さんとおかみさん役の木村俊恵さんの個性は際立ってますね。
だからこそ、山守に翻弄される昌三の苦労が際立つ訳ですが、かなりコミカルにデフォルトされてますが、希代のキャラクターかと思います。
また、時折見せるコミカルな部分も良いんですよね。
史実を元にして製作されていて、映像化を熱望されながらも多大な労力と苦労を有する作品を映画化したのは役者・製作陣の熱意があっての賜物。
そんな貴重な作品を劇場で観れた事に感謝です。
凄惨で滑稽な男たちの群像!
"仁義なき戦い" シリーズ第1作。
Blu-rayで2回目の鑑賞。
原作は未読。
第一次広島抗争を背景に、やくざの血で血を洗う凄惨な戦いを徹底的なドキュメント・タッチと壮絶なバイオレンスで描いた「東映実録路線」のはじまりにして、輝かしい金字塔。
高度経済成長が行きつくところまで行きついた頃、戦後日本が一気に駆け抜けた時間を総括する気運が高まっていたのでしょう。本作が生まれたのは必然だったのかもしれません。
喰うか喰われるかの世界で生きる男たちの繰り広げる人間ドラマは凶悪だし陰惨極まるものばかりではありましたが、同時にものすごく人間らしいものでもあるな、と…
描かれる抗争の描写は現在のアクション映画みたいな洗練されたものでは無く、死物狂いで殺し合う命の取り合いに相応しいもので、とても泥臭く、どこか滑稽味がありました。
そこら中を転がり回りのたうち回りもがき苦しみ、応戦する者もいれば必死に逃げ惑う者もいる。それぞれの模様がめちゃくちゃリアリティーに溢れ、凄惨さに拍車を掛ける。
やくざ同士のパワーゲームにハラハラさせられました。殺るか殺られるか、一進一退の駆け引きがめちゃくちゃ面白い。
やくざ社会で成り上がろうとあの手この手。滅びる者もいれば、敵や味方を利用して潜り抜ける世渡り上手がいたり…
多種多様な人間模様が重層的に描き込まれ、圧倒的な大河のように荒々しい物語が展開されていて引き込まれました。
組織を描いた作品として観た場合、現代社会に通じる場面が多く、自分が身を置く組織に置き換えて観ると発見があるのが面白い。やくざ映画と云うジャンルの範疇を越えて今でも熱狂的なファンがたくさんいることも納得出来ます。
本作みたいにギラギラした映画を最近は見掛けません。やくざが登場する作品はたくさんありますが、どこかカッコ良さがあって、人間臭さが無いなとつくづく感じます。
自主規制やコンプライアンスの厳しい時代を迎え、このような映画がつくり難くなっている現状だから致し方無いのかもしれませんが、この熱狂を浴びたいとも思うのです。
[余談1]
マイ・フェイバリット・キャラは山守組長。手下に担がれる「神輿」でありながらちゃんと手綱は握っていると云う、したたかで君主としての器も持ち合わせている不気味な存在であるところに底知れぬ怖さを感じ、コミカルなキャラも合わせて魅了されました。稀に見るクソ野郎なれど、そんなヤツだからこそ混迷するやくざ社会を上手く泳いでいく。こう云うのが結局最後まで生き残るのは実際によく聞く話だし、このシリーズが描いているのは人間社会の縮図なんだなと納得しました。
[余談2]
本シリーズに出演していた俳優さんたちの多くが近年立て続けに鬼籍に入られていることを、大変悲しく思います。
[以降の鑑賞記録]
2019/06/29:Blu-ray
2021/01/07:Blu-ray
2024/02/04:Amazon Prime Video(4Kデジタルリマスター版)
※修正(2023/07/25)
実録路線の原点
深作欣二監督作。東映は60年代以降時代劇の衰退からヤクザ映画の製作へと舵をとる。高倉健や鶴田浩二が主に主演した昭和任侠伝などは勧善懲悪、分かりやすいストーリーに任侠をいれたものだった。そのシーンへの反動か深作欣二は「実録」を掲げて彼なりの日本の戦後史への回答をしていくことになる。
凡庸なヤクザ映画とは異なり、時代を反映し批判した本作は傑作。公開直後から反響を呼び即続編の製作が決まったという。若いスタッフや役者が数多く、東映の社風もあってからか勢いが凄まじい。ハンディカメラで撮ったドキュメンタリー風のカメラワーク、血のりなど今なおスタイリッシュで斬新な暴力描写だ。
この映画に出てくるヤクザたちは題名の通り仁義など持ち合わせておらず、自らの保身や金と権力のために行動する。それが組織の拡大に繋がり、別の組織と利権を争うようになる。ヤクザの物語であるがこれは全ての人の生活においても普通のことだ。ヤクザと関係ないと思う人にこそこの映画を見てほしいと思う。
印象的な台詞が数々出てくる。最も印象的かつシリーズを通してこの物語の核心をつく台詞がある。「狙われるものより狙うほうが強いんじゃ」イモをひいていると一気に飲み込まれてしまう。覚悟を決めろ。
3回目
菅原文太さんの訃報で、映画秘宝の杉作J太郎さんの文章が素晴らしく、そのタイミングで午前十時の映画祭で上映されていたので見て来た。多分3回目で、1回目はストーリーの構成の悪さみたいなものが気になってあまり面白くなかった。2回目は特集ムックを読んで、場面場面の圧倒的な感じが楽しかった。3回目はコンディションに失敗してかなりうとうとしたのだが、景気のいいテーマ曲が掛かるショッキングな場面で目を覚ますのを繰り返しつつ見た。登場人物を大分把握できるようになってきた。
文太さんのあまりの人の好さで、つい人殺しをしたり服役したりする人生のままならない感じがよかった。松方弘樹がかっこよすぎて、おいしいとこ取りしすぎだったり、唇の赤すぎる金子信夫と奥さんの心底憎たらしいところも面白かった。
寝てしまったとは言えスクリーンで見れてよかった。そのうちまた見るだろう。
(追記)
4回目、DVDで見る。何度見ても面白いのは毎回ストーリーを追うのが大変で、忘れてしまうからだろうか。梅宮辰夫以外に似た人が二人いたような気がする。菅原文太が指を詰めたのに、金子信夫は特に気にせず政争の具にしていたのがひどい。松方弘樹が女のアパートで菅原文太に会って、文太が胸ポケットに手を入れた途端大変なビビりようで面白かった。
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