「子は親を思い、親は子の血を吸う」仁義なき戦い jin-inuさんの映画レビュー(感想・評価)
子は親を思い、親は子の血を吸う
戦争も終わり、戦友たちとも別れ、故郷へ復員した男たち。
家族がおらず、天涯孤独な者もたくさんいたことでしょう。
そんな彼らの一部は生きるために犯罪に手を染め、ヤクザとなりました。
ヤクザには親がいて、兄弟がいて、子がいます。
血縁関係はないもののまさに家族、「疑似家族」です。
そして助け合ったり、親子喧嘩したり、兄弟喧嘩したり。
そうやって彼らは厳しい戦後社会を生き抜いていきました。
彼らは淋しいから群れを作り、怖いから吠えます。
そんな彼らにとって一番恐ろしいのは死ぬことではなく、一人ぼっちで生きることです。
破門されて一人になるくらいなら、指を詰めたり人を撃ったりも平気です。
なんの後ろ盾もなく戦後社会を一人で生きるということは、それだけ大変なことだったのでしょう。
本作はそんな疑似家族による子殺し、親殺しの物語です。血で血を洗う「家族映画」
です。
山守組は親子関係が芳しくありません。親が強欲で、自分の利益のために子同士を争わせます。血で血を洗う兄弟喧嘩が勃発します。広能昌三(菅原文太)はみんな仲良くやって欲しいと思っていますが、人を撃つこと以外に彼にできることはありません。若衆頭の坂井鉄也(松方弘樹)は親に逆らいなんとか自立の道を探りますが、結局親に殺されます。子らはほとんど死んで、親だけが生き残ってしまいました。薄情な親による子殺しの物語です。
土居組も親子関係が芳しくありません。山守組との間で抗争が勃発します。抗争を収めようとした土居組若衆頭の若杉寛(梅宮辰夫)はあっさり親から縁を切られてしまい、逆に若杉も親殺しを決意します。抗争を止めようとしただけで、親子の絆を簡単に切ってしまっていいのでしょうか。若杉は自分から手を下しませんが、広能が親を殺すことを黙認します。なんとも理解に苦しむ親殺しの物語です。
若杉という男。悪さした愚連隊の男たちの腕を有無を言わさず切り落としたり、脱獄のために自分の腹をかっさばいたり、組織同士の抗争を嫌がったり、自分の親の暗殺計画に加担したり、山守組を裏切った男を粛清したり、学生に化けて逃げようとしたり。上昇志向も帰属意識も薄く、登場人物たちの中で一番行動原理が読めない男です。かれの行動は義理人情や欲望では説明が困難です。自分なりのマイルールでもあるのでしょうか。純粋に広島の平和を願っていたのでしょうか。山守組を裏切った神原を殺すのなら土居組を裏切った自分も殺されるべきでは。広能は自分をヤクザの世界に引き入れた若杉のことをなぜか一番信頼しているようです。親子の絆よりも兄弟の契を大切にする二人の関係性がよく理解できませんでしたが、同性愛的ななにかがあるのでしょうか。
両組の若衆頭ふたりはそれぞれの親を捨て、どちらも殺されます。最後まで親を捨てきれなかった広能だけが生き残りますが、自分から親子の盃を返上し、一人ぼっちになってしまいました。
擬似家族とはいっても所詮は他人同士。利害が絡むと親子、兄弟間で喧嘩が絶えません。そして彼らの喧嘩は命の奪い合いです。やっぱり部屋に引きこもっていたほうが安全のようです。どっちみち一人ぼっちになるわけですので。
戦後80年、平和な世の中になりました。
もう男たちは群れを作る必要はありません。
それどころか「こどおじ」として一生引きこもって生きることも可能です。
一生を一人ぼっちで好きなことをして生きることができます。
ヤクザ映画もすっかり廃れてしまいました。