「非民主的検事」女性の勝利(1946) kossykossyさんの映画レビュー(感想・評価)
非民主的検事
ひろ子のかつての婚約者山岡が5年の刑期を終え出所することになった。山岡は思想犯として投獄されたのだが、彼を有罪にしたのはひろ子の義兄・河野だったのだ。一旦は婚約破棄を強要されたものの、身寄りのない山岡が出所と同時に入院することになったので、ひろ子は看病に精を出す。ひろ子の姉・みち子(桑野)が花束を届けるも、山岡はそれを投げ捨てるのだ。当然といえば当然。獄中では取り調べの拷問も厳しかったと推測できる。それにしても、治安維持法が有効だった時代と、それが廃止された時代では考えを変えなければならないのに、かなり強情な河野検事だ。
そんなとき、女学生時代の友だちだった朝倉と出会う。ひろ子と別れた後、朝倉は夫に死なれ、気が触れたかのように取り乱した。ひろ子のもとを訪ねるも、要領を得ない。ひろ子は彼女に自首を勧めた。
妹弁護士と義兄検事の対決!山岡の件もあり、一筋縄ではいかない人間関係と確執。“司法の民主化”という言葉も聞かれるし、公判では封建制度と女性の地位向上も問題にされる。ましてや、河野検事は権力を盾に法律を操っていることで弁護士会からも敵視されているのだ。論点は情状酌量が可能か?という点だったが、心神喪失が認められれば無罪さえあり得るのだ。嬰児を抱きしめ窒息させてしまったのだから、過失致死だって考えられるが、これは取り上げられてなかった。ひろ子は最終的に無罪を主張。休憩に入ったとき、山岡の死を伝えられ、また、河野の妻であるひろ子の姉も家を出る覚悟だとひろ子に伝え、勇気百倍。法廷に向かうシーンでエンディングを迎えた。結果は見えている。
戦後直後の映画だけあって、フィルムの無駄遣いが出来ないのだろう。ちょっとダメだしぽい会話も感じられたし、完成度はいまいち。しかし、新憲法が成立する前に作られたこの映画。かなり大胆なことをやろうとしていた監督の意気込みが感じられた。また、河野の戦中の罪深きことに対する弾劾みたいな裁判になりそうな雰囲気。この裁判に勝てれば検事正の椅子も用意されるというから、いかにも悪徳検事といったイメージも残る。それに公判前に取引しようとしてるんだからな・・・物質的な面倒をみてやって弁護士にしてやったのに・・・気持ちはわかるが、やばいでしょ。女性の地位向上というテーマよりは非民主的検事の悪を糺すといった社会派映画のように思う。