春琴物語のレビュー・感想・評価
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規定されたくない女
1954年。伊藤大輔監督。谷崎潤一郎原作の小説を映画化。幼いころから丁稚修行に入った大店には盲目で絶世の美女のお嬢さんがいた。その女性に長年にわたって献身的につくす男の姿を描く。 男は主人ー奉公人に加えて師匠ー弟子となり、とことん従属的に振舞う。女は恵まれた家庭に生まれたうえに美貌にも恵まれているが、さらに芸術上の高みを目指している。何から何まで言うことを聞く男と結婚をすすめる両親のやさしさを拒絶するのは、それが自分自身の思いを決めつけているからだ(あの男のことが好きなのだろう)。決めつけられること自体が許せないのであって、男とは子までなしているのだが、男への愛(通常の意味での)があるのかないのかは描かれない。主従という自分と男がつくり上げている関係を第三者に規定されたくないのだ。映画もそこまで踏み込まない。 物語の性質上、ヒロインの京マチ子は終始目をつむっている。服従する男である花柳喜章もラスト近くで盲目になるから目をつむる。二人の主観ショットがむずかしいのだが、記憶であることをしめす幻想的な映像、暗闇、画面のぶれ、などさまざまに工夫している。また、絶世の美女といわれているのだから客観的にそう見えなければいけないが、瞳がない顔に華がないのは否めない。その分は長いまつげと細く引いた眉が引き受けている。
☆☆☆☆ 今では眼が見えなくなってしまったお琴が、雪の冷たさを思い...
☆☆☆☆ 今では眼が見えなくなってしまったお琴が、雪の冷たさを思い出しながら舞う場面の美しさが白眉。 作品中に佐助が物干し場で三味線を練習する場面が有り。同じく伊藤大輔監督作品・主演京マチ子の名作『いとはん物語』を思い出す。 美術監督は別なれど、音楽も同じく伊福部昭。 あちらはカラー作品で、セット美術で描かれた夕日の美しさが悲劇性を増幅させ。こちらの涙を搾り取られたものだった。 お琴の美しさを妬むのが杉村春子。 もう素晴らし過ぎる(^.^) いつまでもこの女の嫌味顔を観ていたいと思わせてくれる。 そして映画は終盤の《その場面へ》 分かりきっているにも関わらず、ドキドキか止まらない。 作品中に何度も重なるお琴と佐助の手のカットこそ、2人の気持ちの通い合い。 単なるその繰り返しと言えるのに、《その場面》の後に起こる、なかなか重ならない2人の手。 ただそれだけで、何故にこれ程までに感情を揺さぶられてしまうのか? まさに悲劇の名匠伊藤大輔の真骨頂と言っていいクラシカルな演出に酔わされしまった。 2018年11月9日 国立映画アーカイブ 長瀬記念ホール OZU (旧国立近代美術館フイルムセンター大ホール)
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