「生まれる前の物語ですが、日本人の夫婦の物語は21世紀の今も変わりないと思います」驟雨 あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
生まれる前の物語ですが、日本人の夫婦の物語は21世紀の今も変わりないと思います
1956年公開、白黒作品
驟雨とはにわか雨のこと
それも急に激しく降り始めてすぐ去って行くようなものだそうです
驟雨は一度か二度劇中で降ります
隣に夫婦が引っ越ししてきた最中のものはハッキリと映像で表現されます
でも本当の驟雨はそれではありません
時折おきる主人公夫婦の感情のぶつかり合いです
でも台風みたいな暴風雨じゃありません
急に降り出した本降りのにわか雨のようなもの
ラストシーンの紙風船の打ち合いがそれです
にわか雨はすぐ上がります
新婚旅行帰りそうそう旦那の文句をあれこれ言って怒っていた姪の山本あや子が夫婦の仲の良さそうな写真を送って来たみたいに
夫婦も長年やってきた方なら、あるあるのオンパレードでしょう
自分も身につまされました
なんのことなのない会話もできなくなって、お互いが傷つく言葉や物言いの応酬
とてもリアリティがあります
既視感というべきかも知れません
なんだか観ていて針のむしろで、チクチク心が痛みました
冒頭の姪の山本あや子の新婚旅行でのケンカのエピソードだってそうです
男女の価値観、生態の違いがよく描かれています
まあそのエピソードもたいがいで、そりゃあ怒るわなあというシロモノでした
20歳くらいの頃、初めて彼女と同棲の真似事した大昔のことを思いだしました
彼女からいろいろと幾つか泣いて頼まれました
トイレで音を立ててしないでとか・・・
あとは忘れてしまいました
遠い遠い昔のことになってしまいました
本作の5年前の成瀬監督の「めし」と似た倦怠期の夫婦の愛情物語です
原節子36歳
佐野周二42歳
ラストシーンに登場する子供が二人くらいいてもおかしくない年齢の夫婦です
子はかすがいとは本当です
子供がいないなら、余程お互いが努力しないとならないのだと思いました
劇中登場する駅は、よく見ると小田急線梅ヶ丘駅のようです
下北沢のひとつ向こう
昭和31年の木造の小さな駅、もちろん高架なんかじゃありません
駅の売店、商店街の看板の数々・・・
商店街や住宅街の光景をしげしげと見入ってしまいます
粗末にみえる木造の住宅も、当時は立派な新興住宅街だったに違いありません
道路はみんな未舗装です
ものすごい変わりようです
街の光景が様変わりしたように、新婚当時と、長年連れ添った現在の夫婦の関係は全く変わってしまったかもしれません
生まれる前の物語ですが、日本人の夫婦の物語は21世紀の今も変わりないと思います
夜の幼稚園での集会のように、互いの不満を言いたい放題やってしまったらひとつ屋根の下で暮らしてなんかいられません
ぐっとお互いの不満を胸の内に押し込めて行かないと持ちゃしません
それを言っちゃあおしめえよ!です
それでも驟雨が時折訪れて、雨を降らせないといけないのかも知れません
確かに未舗装の道は、水溜ままりができて泥だらけになるかもしれません
それで雨降って地固まるっていうじゃ在りませんか