「奇天烈で唯一無二の快作」しとやかな獣 山の手ロックさんの映画レビュー(感想・評価)
奇天烈で唯一無二の快作
若尾文子映画祭の中で、川島雄三監督の傑作コメディを数十年ぶりに再見。改めて観ると、いかに奇天烈で唯一無二の快作であることか。
まず、音楽。オープニングやキーとなるシーンに、場違いと思えるような能楽を用いている。かつて見た時も強烈な印象を受けたが、夕日をバックに踊り狂う姉弟の姿に能楽を被せるところなど、一体どうしたらそんな演出が思いつくのか。
そして、カメラワーク。団地の2室を舞台にしているが、ワイド画面の特徴を生かして、リビンクでのやり取りを隣室で覗き見している様子を一画面で映していて、それも窓側からだけでなく、壁側からも。後半になると、上からも下からも、縦横無尽。
もちろん、新藤兼人の脚本と俳優陣も。あの膨大なセリフを間断なくキャッチボールしている様は凄い。伊藤雄之助があんなに口跡がいいとは知らなかった。山岡久乃の丁寧な言葉遣いと裏腹の不気味さ、若尾文子の肝が据わった感じもいい。冒頭のエセラテン歌手が小沢昭一だと後から知った。
下世話であけすけなセリフの応酬だが、「あんな貧乏には絶対戻らない」「自分たちの時代と違って、今の世の中は若者に甘い」といったセリフに、作り手たちの屈折した想いが感じられた。
「パラサイト」との類似が言われているが、所々にインサートされる上層と下層をつなぐ長い階段のイメージあたりに感じられるだろう。
個人的には、ラストの家族が揃ってくつろいでいるシーンに救急車のサイレンの音だけが近づいてくるところで、「家族ゲーム」を思い出した。きっと森田芳光も本作が好きだったのでは、と想像する。
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