「何より若尾文子氏の才色兼備で清楚な女性と男を誘惑する計算高い悪女を見事演じ分け、出演時間は10分足らずにも関わらず強烈に印象付けています。」しとやかな獣 矢萩久登さんの映画レビュー(感想・評価)
何より若尾文子氏の才色兼備で清楚な女性と男を誘惑する計算高い悪女を見事演じ分け、出演時間は10分足らずにも関わらず強烈に印象付けています。
国立映画アーカイブにて開催中の「第47回ぴあフィルムフェスティバル2025」にて「私が憧れた女優たち~梶芽衣子デビュー60周年企画」と題した特集企画開催。
梶芽衣子氏がいまこそ若者に観てほしいという憧れの女優たち出演作4作を選定。
本日はルキノ・ヴィスコンティ監督、アラン・ドロン、アニー・ジラルド出演『若者のすべて 4Kレストア完全版』(1960年/179分)と川島雄三監督、原作・脚本新藤兼人氏、若尾文子氏、伊藤雄之助氏、山岡久乃氏主演『しとやかな獣』(1962年/96分)を上映。
『しとやかな獣(けだもの)』(1962年/96分)
新藤兼人氏の原作・脚本を『幕末太陽傳』(1957)の川島雄三監督が演出する豪華布陣。
あらすじは、元海軍中佐の前田時造(演:伊藤雄之助氏)は狭い団地の一室で妻(演:山岡久乃氏)と暮らしているが、商才はなく次々と事業に失敗。
自分の子どもたちをあやつって他人の金を巻き上げている。
息子の実は勤め先の芸能プロで所属タレントのギャラを横領。
姉の友子は時造に仲介された小説家(演:山茶花究氏)の妾・二号となり、小説家が借り与えた団地にはちゃっかりと前田家全員が住み込んでしまう始末。
そこへ横領された芸能プロ社長(演:高松英郎氏)と会計係・幸枝(演:若尾文子)が団地にやってくるが、幸枝は社長や息子・実から合法的に多額の金を貢がせ旅館開業の資金を貯めていた…というようなお話。
ほぼほぼ狭い団地の一室内で撮影されたワンシチュエーションの密室劇にも関わらず、変幻自在、縦横無尽のようできちんと計算されたカメラワークが秀逸で観ていて飽きさせません。
キャストは芸達者な伊藤雄之助氏と山岡久乃氏の夫婦が本作ではメイン。
伊藤雄之助氏の面目躍如な怪演もさることながら、常に夫と子どもたちを甲斐甲斐しく世話を焼きながらも、実は一番貪欲で腹黒い悪妻を演じた山岡久乃氏が秀逸ですね。
そして何より若尾文子氏の才色兼備で清楚な女性と男を誘惑する計算高い悪女を見事演じ分け、出演時間は10分足らずにも関わらず強烈に印象付けています。
彼女の主演作のなかでも人気投票第1位獲得も納得です。
ポン・ジュノ監督『パラサイト 半地下の家族』にも通じた社会風刺の効いたブラック・コメディですね。
上映後は貴重な梶芽衣子氏のトーク。
日活出身の梶氏が憧れの女優として大映の若尾文子氏を選ぶとは意外でしたが、大女優が大女優を慎み深く語ることからはじまり、梶氏の演技の師匠・山岡久乃氏や高品格氏とのエピソードや台本を徹底的に読み込んで自分に合わない役はきちんと断る、また受けた仕事はきちんとやり遂げの現場に台本は丸暗記で持ち込まず一切揉めたことがない話や、映画とドラマの演技の違いなど1時間近く貴重で濃厚なトークで大満足、生・梶芽衣子氏の眼差しに完全にやられました。