「恐怖と哀しみが交錯する心震える人間ドラマ」死国 hollowhollowさんの映画レビュー(感想・評価)
恐怖と哀しみが交錯する心震える人間ドラマ
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『死国』は単なるホラー映画の枠を超え、切なさと哀しみが深く刻まれた作品です。四国という神秘的な舞台、逆打ち巡礼の伝承、そして死者の復活というテーマが見事に融合し、物語に独特の重厚感を与えています。莎代里は幼い頃から霊媒師としての運命を背負い、母・照子の期待に縛られた人生を送ります。彼女の復活は母親の独断で行われたものであり、彼女自身の意志ではありません。その結果、彼女は生者としても死者としても翻弄され続ける悲劇の象徴となります。
一方で、文也の選択は愛情や責任、未練が絡み合った複雑なものでした。彼が莎代里と共に死者の国へ向かったのは、彼女を一人にできなかったからか、あるいは比奈子を守るための自己犠牲だったのか。答えは観る者に委ねられています。物語は過去との決別や未練からの解放というテーマを内包し、観客に深い余韻を残します。
美しい四国の風景、閉鎖的な村の空気感、そして莎代里の哀しい眼差し──これらすべてが観る者の心に静かに、しかし確かに爪痕を残します。『死国』は怖さ以上に人間ドラマとしての完成度が高く、観た後も心に残り続ける稀有なホラー映画です。
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