「今まで見た小津映画で一番よかった笠智衆」秋刀魚の味(1962) talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
今まで見た小津映画で一番よかった笠智衆
「秋日和」とほぼ同じメンツのおじさんトリオが出てきて「秋日和」よりもっとえげつない話をするのがとっても気持ち悪くて嫌だった。そこに彼らの出身校の漢文教師を迎えての四十年ぶり同窓会が挟まることで、娘を嫁にやるやらないの切なさと問題点がシビアに浮き上がる。きっかけとなったのは漢文教師の娘(杉村春子)。母を亡くし、主婦として家を回し教師の父親を支え、父親の退職後は町中華の店を父とともに切り盛りしている。ほんの少しの出番なのに、杉村春子は父ゆえに婚期をのがした娘を背中で、表情と佇まいで素晴らしく表現している。
結婚させるべき当事者は平山(笠智衆)の娘の路子(24歳)で岩下志麻が演じている。気が強くも優しくて我慢強い。路子には兄がいてその妻役は岡田茉莉子。この映画でも岡田茉莉子は優しくもあり気が強くもありいずれにしても頼もしい。その夫(路子の兄)は佐田啓二が演じている。今まで見た小津映画で一番出番が多く長いので、中井貴一と如何にどこが似ているのかたくさんわかった気がした。セーターを肩に羽織るシーンは「お早よう」にもあった。とにかくお洒落で品のある素敵な俳優。
バーのママの岸田今日子が可愛らしく、平山も亡き妻に似ている気がしていて気に入っている。そのバーに連れて行ってくれたのは、漢文教師の町中華で偶然会った、戦中、同じ海軍の部下だった人(加東大介)だ。軍歌を聞くと聞いていけないもののような気分に私はなる。実際に戦争に行き生還してきた人にとってはどうなんだろう?
娘役の岩下志麻は父親の言うことを聞いて結婚する。家で支度した白無垢姿は美しい。でも白無垢姿にはどうしても悲しさと涙がつきまとってしまう。その瞬間から式と披露宴が始まり仲間との二次会から抜け出すまで常に知っている誰かが側に居たに違いない父の笠智衆。「亡き妻に似ている」ママのバーに寄って少しだけ一人になる。自宅に戻り自分を待ってくれていた長男夫妻(佐田啓二&岡田茉莉子)に挨拶して帰らせ、同居のまだ若い次男には寝るように言う。やっと一人になった。かなり酔ってふらつき一人佇むお父さん。お父さんは泣いてない、でも私は涙が止まらなかった。小津の映画で笠智衆がこれだけ素晴らしい演技をしたのは最初で最後なのではないかと思った。
おまけ
1)結構びっくりしたのは、妻を亡くしてから随分と年下の女性と再婚した友達に対して平山(笠智衆)が「不潔だ」と言い放ったシーンだ。小津安二郎の映画ではあまり聞かない言葉のような気がした。
2)「彼岸花」でもそうだったように、この映画でも「ちょいと」という言葉がたくさん何度も使われていた。東京のことばという感じで楽しく嬉しかった。
オヤジ3人ってこの作品のことでしたか?ようやく令和になって、男性優位の文化が音を立てて崩れて来ましたかね。小津作品をビミョーと一刀両断できるtalismanさんが素晴らしい👏🏼😁
コメントありがとうございます😊
力仕事には必須ですが、仰ることよくわかります。奢りではなく、仕方なしにやって来、成し遂げ、できた、というのが女性。今の便利な時代ではなく大変不便な時代であるからこそ、もの凄いと思います。
こんばんは♪共感ありがとうございます😊
笠智衆さん自身は独身通して、あの友人は、だいぶのろけてましたからね。いいお年だから自重しろ、という意味合いにも感じました。友人同士引っ掛け合いばかりしていて昔もふざけるのはしっかりあったんですね。
ちょいとtalismanさん(笑)
こうしてひとつの映画でレビューを出し合って語り合うのって、やっぱり楽しいですねー。
みんな受け取り方が違うからたくさんの発見をもらえますもの。
改めて自分のものを読んで、なんて荒れてるんだろう!とびっくりしてしまったですヨ😁
ではでは