「小津安二郎は、難しい。」秋刀魚の味(1962) milouさんの映画レビュー(感想・評価)
小津安二郎は、難しい。
ひどく平易な言葉と絵作りが徹底されているのに、小津を本当に理解するのは結構むずかしい。
まずショットレベルで難しい。あのオープニングクレジット明けの1枚目。ただの工場の煙突群なのに、映画という映画を見てきた観客なら、見た瞬間にノックアウトされる。逆に言えばこの絵にノックアウトされないなら、まだ小津を見る準備は整っていない。そして晴れた日の東急池上線のプラットホーム、若い男女が並んで電車を待つシーン。これも見てすぐ「ああ、これは容易ならない映画だ」と思い知ることができなければならない。
そして話の作りも、小市民的な外観は表層だけで、実はどろどろした現実がそのまま参照されている。この作品も台詞をきちんときいている観客には、社会低層に転落したかつての権威・ぶざまに負けた戦争・若い男女の避妊・後妻との夜の生活…がストレートに語られていることに気づくはず。笠 智衆ののんきな台詞回しに気を取られていては、これは分からない。
そして執拗に反復される、あの正面正対のきりかえしショット。これを撮るために、どれほどの手間と技術がそそがれているか。そして木造家屋の廊下、オフィスビルの通路、料亭の土間…を世間の設計図のように撮るための厳密な視線。
世界の映画史でも小津を本当に特別な存在にしているのは、これらの異様な技術的達成と、物語に組み込まれた意味の多様さ。
残酷で優しい、ひどく精密に撮られた映画史上の傑作。
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