「人身売買の犠牲とはこういうことだ」山椒大夫 Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
人身売買の犠牲とはこういうことだ
総合:85点 ( ストーリー:85点|キャスト:75点|演出:70点|ビジュアル:60点|音楽:65点 )
いいとこ育ちの子供たちが騙されて母親と別れ人買いに売られてしまった後の生活が酷くて、それだから引き込まれる。逃走を計った者達に対する仕打ち・故郷や家族を思う気持ちの表現・使い捨てにされる絶望の中に生きる奴婢たちの生活が、その身分がどんなに悲惨かを示している。
演出自体はそれほど迫力があるわけでもないし、演技も説明的だったりで古い。それなのに、人身売買を扱った作品としては、その悲惨さの伝わり方という意味で屈指のものだった。遊女に身を落したと思われる母親の歌が実に物悲しい。汚辱の中でも清廉さを保ち続けた足の腱を切られた妹の勇気と決断に、尊敬と哀れみを感じざる得ない。だからこの過酷な運命の物語の登場人物たちがこれからどうなるのかと、目を離せなくなった。
ところが脱走以降の話は上手くいきすぎで、中弛みだし白けてしまった。物語として弱いところで、急に出世してこんなにもあっさりとやりたいことをやってしまえるのは拍子抜けした。経験も学問もない男がどうやって組織をまとめたのか、権力を傘にきる相手を打ち破ったのかすっきりしない。
ここまで観て、前半は面白かったけれど後半からはこの程度なのかなと思って少し冷めた。しかしそこからまだもう一つ山場が残っていた。佐渡の場面でもう一度引きつけられる展開があった。当時の犠牲者の姿にいたたまれない気持ちになるし、心を揺さぶられる。
制作年が古いから映像や演出が古いのは仕方が無い。それでも面白かった。心に響いた。湖と海辺の場面は特に印象に残った。これは是非とも森鴎外の原作も読まなければ。