「メロドラマとリアリズムが融合した一大傑作」残菊物語(1939) あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
メロドラマとリアリズムが融合した一大傑作
1939年昭和14年の作品
祇園の姉妹から3年後、その間に3作を撮っていますが、その第一映画が解散したため松竹に移って撮った最初の作品
祇園の姉妹から一転して、本作は完璧なメロドラマです
ところが演出はリアリズムを追求しています
祇園の姉妹での徹底したリアリズムの手法が本作ではメロドラマを裏打ちして真に迫った嘘臭くないものする為に全力を傾けられています
ワンカットワンシーンの多用も効果的で印象的なシーンを生んでいます
大阪への凱旋興行が終わり知らせを受けてお徳のもとに駆けつけるシーンは、特に成功している長回しのシーンだと思います
大通りを人力車が進み路地の入口で止めて路地を急ぐ菊之助を低いカメラ位置で見上げつつ、カメラも動きながら止らず撮り続けます
そのカットは、はやる菊之助の心情を強烈に伝えて効果を発揮しています
そして圧巻の船乗り込みのシーン
カットバックされるお徳の病床の様子
夜の道頓堀のセットと川を進む大船
巨費がかかったであろう壮大でかつリアリズムの極致のセットの迫力あるシーンです
臭くなるはずのメロドラマのクライマックスがこれによって、嘘臭くなくなってしまうのだから、ここでの溝口監督の演出の手腕は剛腕です
このシーンは名シーン中の名シーンとして語り草だと思います
本作はメロドラマとリアリズムが融合した一大傑作だと思います
大ヒットしたのも当然だと思います
高邁な左翼思想をテーマに据えても大衆に支持されなければ無意味だということです
残菊たるお徳が、一般大衆の代表となって、エリートたる菊之助を励まし前進させている構造なのです
これがテーマであるのです
残菊とは、雪が積もるような冬まで最後まで残った菊の花のこと
もちろんお徳のことです
そして役名の菊之助にかけてあります
冬の冷たい雪も、いつか春が来て溶けて消え去ります
しかしその時には菊の花は枯れ果てているのです
船乗り込みのシーンで大船の左右に掲げられている提灯の角座とは、道頓堀の五座の一角の角座のことです
特に格式のある芝居小屋であったそうです
戦後は漫才の演芸場になったり映画館になったりして遂には消滅もして、今は複合ビルとなってビルの名前だけが、道頓堀のど真ん中のその場所にあります