劇場公開日 1964年6月20日

「早よう好きなようになされませ。あとで南無阿弥陀仏と申されませ。」鮫 栗太郎さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5早よう好きなようになされませ。あとで南無阿弥陀仏と申されませ。

2024年12月4日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

田坂具隆監督の文芸もの。中村(萬屋)錦之助の子供役にはさすがに無理はあったが、青年に成長し、夜盗へと闇落ちしていく姿は見ごたえがあった。
越前海岸(三国湊近く)で流民として暮らす鮫。漁民たちからさえ蔑まれ、怯え、身を縮めてほそぼそと生きている。越前を抜け出し、世間を呪い、しまいには京で血の通わぬ悪党へと変り果てる。その鮫を、尼僧の言葉が目覚めさせる。地獄でお釈迦様に出会ってしまったかのように。ある意味、三蔵法師に出会った孫悟空のように。そして迷う。「俺はどこに行こうとしてる?俺は何を探している?」と。その自問こそが、目覚めだ。自分が弱く、欲深く、愚かで、何者にもなれていないと迷うことこそ、人間としての成長の第一歩であり、ひとりの従順な仏徒の誕生だ。残念ながら人間は、鮫ほどの後悔を持たないと、目覚めぬ生き物なのだろう。

栗太郎