「市の信じる大博打」座頭市海を渡る 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
市の信じる大博打
シリーズ14作目。1966年の作品。
てっきりタイトルから(それとOPの印象から)海や船を舞台に海賊と闘う、これまでと一線を画した一作かと思ったら、違った。
“海を渡る”とは、船でシリーズ初の四国へ。
これまで斬ってしまった人たちを弔う為に、四国八十八箇所巡りの旅に出た市。
その最中一人の若い男・栄五郎に理由も言われる事も無く襲い掛かられ、またやむなく斬ってしまう。
栄五郎が乗ってた馬に連れられ、とある集落へ。
そこで栄五郎の妹・お吉と出会う。兄を斬った市にお吉は斬り掛かるが、それを避けなかった市にお吉は心を開いていく。
栄五郎が市の命を狙ったのは、あるやむない理由から。
この集落・芹ヶ沢は、藤八というゴロツキ率いる馬賊が支配しており、その逆らえない命令であった…。
市とヒロインの色恋は定番。しかし今回は特に印象深く。お吉役の安田道代(現・大楠道代)が可憐。
いつものやくざは憎々しいが、今回の馬賊は荒々しく。藤八役の山形勲が迫力たっぷりに。
脚本は新藤兼人! 映画は本作は一本だけだが、後のTVシリーズも手掛ける事に。
名脚本家でもあるので、ツボを抑えた娯楽劇。
が、舞台は四国で馬賊と闘う…と一見新味を加えているように感じるが、やっている事は同じ。
せっかく脚本に新藤兼人を迎えながら勿体ない…いや、ドラマ面で深みがあった。
クライマックスは勿論、藤八一味が攻めてくる。
集落の危機。闘える者は闘おうと…しない。
集落の主は、市一人にやって貰う魂胆。勝てばそれで良し。負ければ後から藤八とじっくり時間をかけて話合うだけ。ズル賢い。
孤立無援。市はたった一人で藤八一味と闘う。
いつもならクライマックスは、市の怒りが爆発して、ヒーローのような強さで悪党どもを斬る!
が、今回は多勢に無勢、弓矢で大苦戦…。いつになく疲労、傷付き…。
闘う前、市はお吉に話す。
市は集落主の魂胆を見抜いていた。
この集落は、ゴロツキのワルと“イイ顔”したズル賢い奴がせめぎ合っている。
それでも人を信じたい。
人は変われるか。
市の大博打。