「 座頭市のデビュー作であるとともに、平手造酒との映画史における「交代劇」でもある。」座頭市物語 TRINITY:The Righthanded Devilさんの映画レビュー(感想・評価)
座頭市のデビュー作であるとともに、平手造酒との映画史における「交代劇」でもある。
黒澤明監督作品とともに、世界中に影響を与え続ける座頭市シリーズの第一作。講談・浪曲で人気を博し、幾度となく映像化された大利根河原の決闘(いわゆる「天保水滸伝」のハイライト)が作品の舞台。
原作者・子母沢寛の、ほんの10ページほどの随筆を元に、盲目の居合斬り(抜刀術)の達人・座頭の市をケレン味たっぷりに演じた勝新太郎は、この役が自身のライフワークに。
シリーズが進むにつれ、人当たりが良く腰も低くなる市は、初登場の本作ではいかにもヤクザっぽく、ドスを利かせた声で凄むし啖呵も切る。この辺りは前年の『悪名』の主人公・朝吉のイメージを引きずっているが、平行してシリーズ化したので差別化が必要だったのかも。
一方、同作がカラーだったことを思えば、あえて本作をモノクロ作品にしたことには『用心棒』〈1960〉の影響も感じる。
監督の三隅研二は本作以降もシリーズに関わり、TVシリーズ『必殺仕掛人』でも監督を担当。白黒画面特有の陰影を活かした演出や大胆な画面構成で剣戟の凄味と悲哀を見事に描き出している。
この映画の見どころは、何といっても座頭市と実在した剣豪、平手造酒(本名・平田三亀)の一騎打ち。
創作物中心に語り継がれているのでどこまで史実を反映しているかは不明だが、平手造酒の本来の最期は飯岡の子分に寄ってたかって斬り殺されるというぶざまな死に方。
そんな末路哀れの造酒の死に様を、本作では盲目のヤクザと余命幾ばくもない剣士との一対一の真剣勝負という、滅びの美学ともいうべき名シーンに昇華させ、実力を認め合った達人同士の否応なき対決は、同年公開の『椿三十郞』のラストシーンをも彷彿とさせる。
「つまらん奴の手に掛かるより、貴公に斬られたかった」との造酒の末期のセリフは、武士でありながら酒乱の挙げ句になぶり殺し同然にチンピラの手に掛かる彼の無念の浄化と魂の安堵ともいえる。
この作品の公開前まで40本を越えていた平手造酒が登場する映画は、本作以降は僅か4作に激減。
市と造酒の対決は、邦画史における名キャラクターの交代劇でもあったのだ。
過度の飲酒で命を縮めた悲運の剣豪・平手造酒を鬼気迫る演技で見せたのは天知茂。
映画・TV双方で扮した『四谷怪談』の民谷伊右衛門役が有名だが、TVの『江戸川乱歩の美女シリーズ』や『雲霧仁左衛門』の主役など善悪どちらでも存在感を示した昭和を代表する名優(大映のもう一つの看板シリーズ『眠狂四郎』にゲスト出演した際は、その存在感で主役食って市川雷蔵を怒らせた話は有名)。
映画の終盤で造酒の亡骸と一緒に埋葬するよう、市が仕込み杖を寺の小僧に託した場面からも、当初はシリーズ化を念頭にしていなかったことが窺えるが、続編を検討させるまでの人気作になった理由は勝新が演じる主人公の魅力のみならず、平手造酒に扮した天知の存在感抜きには語れないのでは?!
1985年に54歳で他界。
最近、映画のレビューを投稿するようになってから、出演俳優について調べると道半ばでの死亡が多いことに驚くが、この人の急逝は子供心にもリアルタイムに悲しかった。
本作で演じた平手造酒とは逆にアルコールを嗜まなかったと聞いていたので、突然の訃報は青天の霹靂だった。
「生まれ時が悪いのか、それとも俺が悪いのか…」
そんなこと、知るもんか。
とにかく、もっともっと活躍が見たかった…。
BS12トゥエルビにて視聴。