劇場公開日 1962年4月18日

「ダークヒーロー座頭市の誕生」座頭市物語 kazzさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ダークヒーロー座頭市の誕生

2021年8月31日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

午前十時の映画祭11にて。
この映画を劇場で観賞できる日が来るとは思わなかった。
大映のマンモス時代劇シリーズの記念すべき第一作。

講談「天保水滸伝」で有名な、剣豪平手造酒(ヒラテ ミキ)が最期を遂げる「大利根河原の決闘」をクライマックスに、笹川一家と飯岡一家の抗争を物語の背景としている。
平手が笹川一家の用心棒なので、座頭市を 飯岡一家の客人とすることで、二人を闘う宿命で結びつけている。
そもそも、飯岡助五郎の子分に盲目の侠客がいたという逸話が座頭市物語の基になっているので、この設定に必然性はあるのだろう。

監督は三隅研次。シリーズ25本中6本を担当している。
(’86年の勝新太郎監督版『座頭市』(松竹配給)をシリーズ26本目とするのは違和感ある)
少し抑え気味な感じはするが、所々でスタイリッシュな映像が堪能できる。
寺の台所で平手(天地茂)が、座った状態で居合い抜きを見せる姿を画面いっぱいに仰角で収めたシーンが芸術的だ。
市(勝新太郎)とおたね(万里昌代)が夜道で言葉を交わすシーンは、二人を画面の左半分に寄せ右上に満月を配置してロマンスの雰囲気を高めている。
遂に平手と市が橋の上で対決するシーンの引きの映像では、斜め下から橋全体を画面に収めて橋の上で対峙する二人は画面左上にあるという、三隅研次独特の何ともアンバランスな構図が見られる。

脚本は犬塚稔。シリーズ25本中8本を担当している。
特段のストーリーがあるわけではない原作(原案)を基に、平手造酒を座頭市のライバルに仕立て、両雄に友情を映し出した見事な脚色。
先に『不知火検校』で描いた盲目のダークヒーローを発展させて、単なる正義漢ではない新しいチャンバラヒーロー座頭市のキャラクターの基礎を作り上げた。
子分たちの屍を放置して勝利の祝盃をあげる飯岡に座頭市が怒りを露にする場面は、チャンバラアクションの合戦の後の描きかたとしては珍しいと思う。
シリーズ化の予定がなかったのか、当初の案では市とおたねは結ばれて終わることになっていたらしい。
仕込みを寺の小僧に預けて封印する場面は採用されている。

主演の勝新太郎は、その後座頭市がライフワークとなる。
勝の類い稀な身体能力で見せる見事な逆手抜刀術は、美しい限りだ。
後々に定着する市の泥臭い闘い模様は、本作ではまだ見られない。
敵の凶刃を仕込みで弾くと、体を回転させて背中で敵を突くという独特の殺陣が新鮮だ。
盲人としての所作はシリーズを重ねてリアリティが増していくのだが、1作目である本作は未完成といえる。とはいえ、ただただニヒルで気取ったアウトローではなく、滑稽さを出しているのは後のキャラクターにも通じている。
飯岡助五郎に怒りをぶつける終盤の演技で、それまで閉じたままだった眼を見開いた表情は迫力がある。

音楽は伊福部昭。シリーズ最大のヒット作『座頭市と用心棒』までの20作を連続して担当している。
土俗的とも言える独特の音楽が、特にモノクロである本作の画面に融合し、雰囲気を盛り立てている。

kazz