劇場公開日 1978年3月25日

「道を踏み外した少年の走り続ける足」サード Gustavさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5道を踏み外した少年の走り続ける足

2021年12月27日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

少年院送りになった高校生が主人公の内省的な青春映画の佳作。少年院の中の生活が興味深く描かれていて面白く観た。軽率と無知の未熟さが、性とお金だけに関心が行く高校生の危うい姿を率直に描いている。東陽一監督のドキュメンタリータッチの堅実さと冷静な視点が生かされた乾いた演出が良かった。全体のイメージは暗い映画でも、寺山修司の脚本の面白さもあり、この脚本と演出のバランスが内容と合っていて、映画として不思議な魅力がある。

施設内で喧嘩などのトラブルがあった時に、少年たちで会議を開き解決策を模索するところがいい。たどたどしい弁論大会の様相ではあるが、実直で飾らない少年たちの素直な考えが語られている。冷静にさえなれば、どんな少年たちにも相手を説得させるだけの常識や理性があるのだ。それと主人公のかつてのクラスメイトが少年院に収監されてから事件の内容が描かれる構成も、映画の語り方として上手い。時系列通りの単調な構成では、ドキュメンタリータッチが勝ってしまう。主人公が置かれている状況からその時何を考えているのかに映画らしい表現がある。
主人公は、野球のサードをしていた。独房にあたる静思室で彼は変な夢を見る。自分がサードを守っていると相手チームのランナーが続いてホームベースへ向かう。そして、いざ自分がバッターボックスに立って打つと、ホームベースが無くなっていて、再び走り続けなければならない。道を踏み外した少年の先が見えない将来に対する不安がイメージとして映像化されたラストシーン。走る足のショットがいい。

  1978年 10月12日  ギンレイホール

Gustav