「罪と弔いの神隠し」御用金 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
罪と弔いの神隠し
五社英雄監督1969年の作品。
フジテレビが製作を手掛けた初の劇場映画でもある。本作があったから『踊る大捜査線』や『HERO』もあった…と言ってもまんざら過言でもない。
フジテレビの相当の意気込みを感じる豪華キャスト。仲代達矢を筆頭に、五社作品で主演を務めた丹波哲郎や夏八木勲らが脇固め。
三船敏郎もキャスティングされ、80%ほど撮影を終えていたが、諸事情で途中降板。(代役は萬屋(旧・中村)綿之助)
内容も非常に見応えあるが、ただ単に一大娯楽巨編ではなく、なかなかに重厚な作り。
浪人・脇坂孫兵衛は命を狙われていた。
刺客を仕留めるが、孫兵衛には心当たりがあった。過去のある過ち…。
三年前の鯖江藩。とある漁村で、三十名以上の漁民が一夜にして姿を消した。人々は“神隠し”と怖れた。
が、事の真相は違った。
難破した船から漁民たちが引き上げた金を、鯖江藩が財政立て直しの“御用金”として横領。口封じで漁民たちを虐殺。
怪現象などではない。藩の非道極まる大量殺人であった。
それを企んだのは、家老・帯刀。孫兵衛の妻の兄であり、盟友。
孫兵衛も元鯖江藩士。この件に関わっていたが、“侍”でありながら非道な行いを犯した事を悔やみ、脱藩。妻も武士としての誇りも過去も、何もかも捨て、放浪の身。
事の全てを知る孫兵衛を亡き者にしようと。
さらに孫兵衛は刺客から、帯刀が再び“神隠し”を企んでいる事を知り…。
あの“神隠し”以来、廃人も同然だった。己の犯した罪と向き合う。今度こそ、同じ過ちは犯さない。かの地へ舞い戻る…。
藩の為とは言え、罪なき人々の命を無情にも奪い…。今またそれをやろうとしている。同時に、宿命の決着の時が…。
再び対峙する孫兵衛と帯刀一派を軸に、
孫兵衛に助太刀する浪人。この男の目的は…?
交錯するのは男たちだけじゃない。チンピラどもに絡まれていた所を助けた女。気の強い賭博場の女だが、実は“神隠し”の生き残り。奉公から鯖江に戻った時、その直後に遭遇。一緒になる筈だった男と父親を失い…。“神隠し”によって人生を狂わされた。
再会を果たした孫兵衛と妻。孫兵衛が鯖江に戻る事を知り、それを留めようとする。今も愛しているからこそ、安否を気遣う。
男たち、女たち。
己の宿命、欲と傲慢、愛憎…。
五社監督の濃密な演出と名優たちの熱演で魅せる。
殺陣やアクションもふんだんに。
中盤の豪雨の中の襲撃。そして圧巻は、クライマックスの極寒の地での闘い。凍てつくような寒さが見る者を刺激するほど。
名シーンと言われる孫兵衛対帯刀。真っ白な雪原に滲む真っ赤な鮮血。
決着と運命、終着とその先にあるもの…。
五社監督の美学に深く斬り込まれる。