「「大旦那」の最期」小早川家の秋 talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
「大旦那」の最期
二代目鴈治郎の飄々とした歩き方、歩きながらするすると着物と帯を身につける様子にうっとりした。長女(新珠三千代)に嫌み言われて本気でむかつく鴈治郎お父ちゃんは憎らしくてかわいい。お父ちゃんは父親で隠居で、そして商家にとっては重石なんだってことがヒシヒシと伝わってきた。
大旦那が倒れた時の皆の動揺はとても大きかった。その後二度目に倒れて結局、京都の佐々木さん(浪花千栄子)の家で息引き取って顔に白布までかけられていたシーンにはかなりびっくりした。家族みたいに線香たいて。佐々木さん、涙も後ろめたさも勿論なくて平常心。これだけの逞しさと割り切りがなくては京都の花街の女は生きていけないだろう。でも家族も親戚も番頭もさっぱりしていて大袈裟に愁嘆しない。平和な時世、隠居位の年齢で死ぬっていうのはそういうことなんだろう。
岸には黒くて大きいカラス、川で何か洗ってる老夫婦。夫(笠智衆)の言葉が昔からの死生観なんだと思った:人が死んでも、またたくさん子どもが生まれるんだから。
人はいつか死ぬのだし、そんなに長生きしなかった時代の死はさっぱりしていたのかもしれない。親戚集まれば故人の悪口言ったり楽しかった思い出を話して必ず笑いがある。そしてふっとその人がもう居ないことに気がついて悲しくなって涙が出る、でもまだ死んだことが信じられない、葬式準備で忙しくてハイテンションにもなる。そんな人間の気持ちをあれだけの短時間で観客を納得させた杉村春子の演技には圧倒された。カジュアルな着物姿といったら杉村春子と沢村貞子が大好きだ。
原節子と司葉子の二人だけの映像が何度も挿入される。部屋の中だったり川岸や縁側だったり歩きながらだったり。特に同じタイミングでしゃがみ、同じタイミングで立ち上がるのが不自然でないのが素晴らしかった。その映像はまるで絵のような美しさだった。
大旦那が死んだら今まで通りの商売はできなくて、大会社と合併して商人がみんなサラリーマンになってしまう。それが私は一番悲しかった。
コメントいただきありがとうございます。杉村春子の素晴らしさ、まさに仰る通りと思います。脚本の力もあるでしょうが、名優がオンパレードの中でも頭ひとつ抜けている気がしました。
私も杉村春子さんの演技には思わず涙がでそうでした。素晴らしい俳優さんですね。
杉村さんのことを書かれた段落(?)は、何かtalismanさんの死生観(というか、これまでの体験?)が出ていて、なんかよかったです。
共感ありがとうございました。鴈治郎、歩いているとき全く腰の位置がブレないのですね。歩き方があれだけ色っぽい人はなかなかいません。それと、私が好きなのは番頭役の山茶花究。
開襟シャツが実に様になります。最後の宇治川の橋をみんなで渡るところ、彼は日傘を差してるんです。男の日傘は今でこそ、ですが。