「「奪う」より「奪われる」ときの美学。」GONIN すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
「奪う」より「奪われる」ときの美学。
⚪︎作品全体
湿度の高い、男の色気に溢れた作品だ。
佐藤浩市演じる万代と本木雅弘演じる三屋を映すシーンは、特に濃度が高い。色気ある芝居の密度、独特なセリフ回しはさすが日活ロマンポルノ出身監督・石井監督といったところだろう。
「終わり」の情感も印象的だった。ヤクザから金を奪った後、一人一人報復を喰らうわけだが、その凄惨さにかなりの時間を割いていた。終の情景ともいうべきか、その過程はメイン5人が集う導入部分よりも濃厚。
後のない男たちは、奪うときよりも奪われるときにこそ魅力がある…そんな石井監督のポリシーがにじみ出ているように感じた。
ただ、それが「くどさ」になってしまう部分も多かった。三屋がシャワーを浴びに行くシーンや万代が撃たれたシーン、ラストシーン。どれも長回しが特徴であり、やはり色気が全開だけれど、やはりくどい。萩原の家族がすでに手にかけられ、それを見て回る萩原のシーンも同様だ。萩原が人を殺したことで狂ってしまったことを表現したいのはわかるが、結果がわかってしまっている絵面を延々と見せられるのは、少し辛い。
金に困った男たちがヤクザを襲い、報復を受ける。プロットがシンプルな分、そこに盛り付けられた情感は個性的で面白かった。しかしそれが「濃厚」として受け取るか「胸焼け」として受け取るか、なかなか難しい作品だった。
◯カメラワークとか
・かっこいいカメラワークが多い。ヤクザ襲撃シーンの机の上を走っていくカットはフォローパンの疾走感が素晴らしかった。画面の暗さがまたかっこいい。必要最低限に被写体、机、机の上に乗っているものだけを映していて、激しいアクションだが整理されているようにも映る。電灯が壊れるカット終わりのアイデアも良い。実はアクションが少ない本作だけど、映し方は本当にかっこよかった。
・序盤、万代のクラブで乱闘が起き、そこから立ち上がったときの万代をあおり気味のカットで映す。乱れた髪を整えながら上を向く万代の感情の切り替えをカメラワークも使って演出していた。
◯その他
・指を詰められたが生き延びた万代を三屋が受け止めるところがすごい。なんか滑り込んで万代を足で挟んで抱きかかえてた。
・萩原役の竹下直人は怪演だったけど、これもまた「胸焼け」する感じの芝居でもあった。本木雅弘の芝居は正直「胸焼け」の度合いが大きい。
椎名桔平演じるジミーが良かった。パンチドランカーで言葉が出てこないっていう設定が地味に効いてる。
・まあでも、何と言ってもビートたけし。この頃の若いビートたけしは無表情で目線を向けるだけで狂気を感じる。これもまた本木雅弘とは違う色気だ。