「オープニングだけで割と満足できる映画」GONIN モアイさんの映画レビュー(感想・評価)
オープニングだけで割と満足できる映画
包み隠さずそのまんまな「男たちの挽歌」(86年)のオマージュから始まる本作ですが、「男たちの挽歌」が観る者の心を熱く奮い立たせる作品であるのに対して、本作は観る者の心を冷たく震えさせるのです。
ブルセラ、援交、オヤジ狩り…コギャルにチーマー、サリン事件…ノーパンしゃぶしゃぶ汚職事件!と、当時は電車で数時間かければ東京へ日帰りできる距離の田舎に住んでいた私ですが、深夜の情報番組などでそれらのルポを見ては、東京とは怖ろしい所だとビビり散らかしていたのです。渋谷になど行こうものなら秒で身包み剥がされポアされると思っていたのでよほどの事がない限り行きませんでした。
しかし田舎には田舎で半歩時代遅れのヤンキーがそこかしこにおり、靴流通センターで買ったダンロップの運動靴を履いているのはダサい事なのでは?と薄々感じはじめても、AirMaxやポンプフューリーなどのハイテクスニーカーを履いてウッカリ目を付けられようものならどんなヤキを入れられるか分かったものではないので、コンバースオールスターかナイキのナイロンコルテッツを愛用していた私。というかそもそもスニーカーに数万円なんて到底出せなかったのですが、それでもAirMaxを履いて学校にくる子は居た訳で、そんな子のAirMaxは盗難にあったりAirの部分に穴を開けられパンクしていたりと…、まだまだ世間知らずな鼻たれではあったものの酷く人心が荒んでいるのを肌身で感じていたあの頃……。
本作がAirMax狩りを描いた映画という訳では全然ないのですが、私が上記のような物事を通して感じていたピリついて暗澹たる空気が漂っていた平成初期の日本。そのくせ音楽やビデオゲーム業界、プロレス・格闘技興行は隆盛を極めていましたが、その景気の良さにもどこかヤケクソ気味の虚勢の臭いがしたあの時代……。
映画はタイムカプセルの様な物だとよく言いますが、この作品にはそんなあの頃の日本の雰囲気が真空保存されているのです。
巨額の借金を背負い暴力団事務所から現金強奪を企てるディスコ店オーナーの佐藤浩市。佐藤浩市を強請ろうと近づいてくる妖艶な本木雅弘。リストラされた事を家族に打ち明けられぬまま街をさまよう元サラリーマンの竹中直人。金髪パンチドランカーの椎名桔平。自身の汚職で妻子含め全てを失い、ボッタくりスナックの用心棒に身をやつす元刑事の根津甚八―。
根津甚八は惜しくも平成28年(2016年)に亡くなられてしまいましたが、今もなお活躍を続ける俳優たちの30年前の姿が確認できるのも本作の見所なのです。
暴力団組長の永島敏行に若頭の鶴見辰吾などはそれまで演じてきた役のイメージとはかけ離れた役を演じている訳ですが、そのハマり具合は怖いくらいです。特に『首でも吊るか?あ?足引っ張ってやっぞ…?』と佐藤浩市を恫喝する鶴見辰吾の静かな迫力は、これがかつて山田太一脚本の名作ドラマ「早春スケッチブック」(83年)で大学受験を間近に控えた気弱で繊細な少年を演じていたあの子なのか?と、その変貌ぶりと時の流れの残酷さに涙が出るのです。
そして現金強奪を成功させた佐藤浩市たちを追う殺し屋の ビートたけし と 木村一八。特にビートたけしは映画公開の前年である平成6年(1994年)に、あの原付事故を起こした後で、片方の目にはガーゼが貼り付けられたままなのです。そしてそれが演じる役の異常性と不気味さを際立たせる小道具として十二分に機能しています。他にも本当にチョイ役ですが室田日出男、不破万作、栗山千明などを確認できる本作。
物語の筋立て自体はありがちで単純であり、登場人物たちに映画本編で描かれていること以前にどの様な経緯があったのかなどは断片的な情報でなんとなく察する程度にしか描かれていません。そのくせ殺し屋の ビートたけし の過去だけはトンでもないシチュエーションで朗々と語られるのですが、まぁ普通の人はあまり感情移入できないであろう登場人物たちによる陰惨な物語を淡々と眺めさせられる映画です。
そんな観客との間に冷たい距離を置く作品であるにもかかわらず、この映画の登場人物たちは観る者に強烈な印象を残すのです。
この人物はこういう性格ですというような事を言葉で語らない分、多少記号的でわかり易く誇張された感じではあるのですが、それを演じる役者たちは実に様になって格好良く、その存在感には説得力と迫力があります。これ程冷たく陰惨な物語なのに、何故か格好いい雰囲気のある映画なのですが、それはやはり演者の力量と魅力、そしてそれを遺憾なく引き出した監督の手腕に因るところが大きのだと思うのです。
そして本作のメインテーマがまた秀逸で、このメインテーマをバックに始まるオープニングがこれまたいいのです。この良さは2回目以降の鑑賞で本領を発揮すると思うのですが、この曲にのってキャストが次々クレジットさていくだけで私の心の中では歓声が湧き起こります。オープニングでキャストがクレジットされるだけでほぼ絶頂を迎えてしまう作品は、私の場合は他にNHK版の向田邦子脚本ドラマ「阿修羅のごとく」(79~80)があるのですが、この両作品のオープニングで流れる楽曲は改めて並べてみるとなんとなく似ていますね。まぁそれはともかく、オープニングのクレジットだけで割と満足できてしまうのも当然作品の良さがあってこそ。
何を分かり切った事を…と思う方も多いとは思うのですが、日本にもいい役者が沢山いるなぁと映画の雰囲気とはかけ離れて、ほのぼのとそんな感想を抱いてしまう。そんな映画なのです。
こんにちは
暑いですね。こちらも昨日は30・3度まで上がりました。
「GONIN」いいですよね。好きです。
一番最後のかな?
根津甚八がほとんど話せない位、重い病を
押して出てませんでしたか?
ジーンときました。後、やはり雨のシーン、ですよね。
「男たちの挽歌」のオマージュから、はじまるのですか?
知りませんでした。
話しは変わりますが、野球が熱いですね。
楽天も引き分け挟んで7連勝?でしたか?
去年を思い出しますね。
昨日はノーヒットノーランが見れるか?と、
すごい緊張してみてました。
残念でしたけど、面白かったです。