「1966年のサンダーバードが優れていたポイントを日本の特撮がようやく理解できたのです」ゴジラVSメカゴジラ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
1966年のサンダーバードが優れていたポイントを日本の特撮がようやく理解できたのです
1993年12月公開
前作に続いて大河原孝夫監督
特撮はもちろん川北紘一で不動です
いやー燃える!平成ゴジラシリーズで一番好き!
「メカゴジラ、リフトオフ!」
隊長佐々木大尉役の原田大二郎が変テコなイントネーションの英語で言うシーン!
メカゴジラコクピット内の英語での会話はもう狂おしいほど素敵です
航空の世界ではもともと、どこの国でも英語オンリーです
それに国連のGフォースですから英語が公用語です
クルーには様々な国籍の外国人も搭乗しますから
何故、オーバーテクノロジーのメカゴジラを人類が作れたのか?
この疑問をゴジラvsキングギドラの結末から持ってくるのは実にスマート!
まるで本作でメカゴジラを出す為に「ゴジラvsキングギドラ」がまるごと伏線であったかのようです
冒頭の筑波の地下基地のメカゴジラの格納庫の格好良さ!もうシビレます!
そこからの発進シークエンスの素晴らしさ!
今までの特撮メカの発進シーンの集大成です
巨大ロボットの垂直発進シーンは数あれど、一番近いのはジャイアントロボかもしれません
しかしそれには支持架やキャットウォークは見当たりません
本作のメカゴジラは整備しやすい寝そべった姿勢から、発進に向けて整備ベッドごと回転して立姿勢になるのです
このシーンは本当にシビレます!
巨大な重量のあるメカゴジラを立姿勢で固定するのだから、それ相応の重厚な支持架でなければなりません
さらに首の高さにはキャットウォークがあり、整備性の良さに留意されていることが伺えます
なんとなく全体的にスペーシャトルの発射台をイメージさせるものです
地上へリフトアップして、冷却材で水蒸気が漂う光景も、スペーシャトルの打ち上げ映像を参考にしているのだと思います
1966年のサンダーバードが優れていたポイントを日本の特撮がようやく理解できたのです
ウルトラホークの発進シーンでも、整備、機材搭載と搭乗員搭乗、発射の各工程のエリアに機体ごと移動させるという見せ方が既に出来ていました
しかしそれはまだサンダーバードの模倣に過ぎず、なぜそういう演出をするのかの理解が表面的でしかないのが透けてみえていたのです
それが、このメカゴジラの発進シーンの映像は、実際の巨大兵器の運用がどういうものになるのかを理解して、理屈が分かっている人が撮っていることがビンビンと伝わって来るのです
オタク心が燃えます!
このメカゴジラの格納庫は、2年後の「エヴァンゲリオン」での初号機の格納庫にそのまま踏襲されます
今ではジャイアントロボやスペーシャトルよりも、そちらの方がそのまんまだ!と思い浮かべる人が多いようです
ゴジラが四日市に上陸して鈴鹿を越えて京都に向かう状況図は台風の進路予報円を思わせるものになっています
これもエヴァンゲリオンで使徒の進路予報円に引用されていました
そしてメカゴジラのフォルムの素晴らしさ!
現代的にリファインされて実に格好いい
重量感、巨大さ、装甲の厚みが自然と伝わるデザインです
なのにハイテク感が漂っているのです
ガルーダと合体するというはちょいとやりすぎ感はありますが両肩にドイツの対空自走砲のゲパルトを思わせる長砲身のビーム砲が突き出るのはイイ!
狭苦しく薄暗いコクピット
座席の配置、ディスプレイ、計器類、
搭乗員の耐Gスーツ、ヘルメットの形状と色
どれもこれもそれらしくできています
分かっている感がビシビシと伝わります
メカゴジラへの搭乗する狭いエレベーターに乗りカメラが上から俯瞰する構図
もうシビレました
音楽は伊福部昭!
新しいメカゴジラの楽曲の数々
名曲です!これでメカゴジラの格好良さが数倍に増幅しています
ゴジラの襲来、都市の蹂躙シーンも見事です
シン・ゴジラを除けばゴジラシリーズピカイチです
最終決戦は幕張新都心
今でこそ幕張メッセやマリンスタジアムで有名ですが公開当時、京葉線は1990年に全線開通したばかりで、沿線には殆ど何もない埋め立て地だらけの中を走る路線だったものでした
それが海浜幕張に近づくと、突然超高層ビルが幾つも建っている光景が広がって、なんじゃこりゃあ!とビックリしたものです
本作で幕張が有名になったのかも?!
ゴジラとの最終決戦に敗れ、炎上して倒れこんだメカゴジラのコクピットから脱出するシーンも素晴らしい
厚い装甲が伺える狭いハッチから抜けだして辺りを見渡すと、夜の幕張新都心は火の海
炎の照り返しと煙も良い演出がなされていました
ベビーゴジラと佐野量子のほんわかとした雰囲気が、殺伐とした戦闘シーンを中和していて今観るととてもいいと思えます
三枝未希役の小高恵美も本作では登場に必然性があり、彼女の風貌と雰囲気が役にマッチしています
ゴジラが本気出したときの強さが眩しい光輪を背景にして表現されています
平成ゴジラシリーズの中でも一番の演出だったと思います
さて、本作は単にオタク心が燃える怪獣映画です
深読みのテーマなんてあるわけありません
ん?本当に?
改めて久し振りに観て、いやテーマは実はあったんだと思いました
本作は1993年の公開
バブル崩壊に伴ってリストラがいろんな会社で始まった頃でした
一流といわれる有名企業でも大人数のリストラがされるようになってきたのです
この年の十大ニュースの4位は「大型不況深刻化、企業はリストラに拍車」だったのです
リストラされる人にも家族はあり、小さな子供もいるのです
本人が悪いわけではない
なのに理不尽なリストラでどう家族や幼い子供を守ればいいのか!
その怒りがゴジラとベビーゴジラ、ラドン、それぞれに込められていると感じました
だからGフォースは組織の論理を前面に押し出すように描かれていたのです
本作のキャッチコピーは「この戦いで、すべてが終わる」
これはハリウッド版ゴジラの制作決定を受けて、本作で平成ゴジラシリーズを一旦終了させる予定だったからと思います
ジュラシックパークは、本作と同じ1993年6月の米国公開
CGでの恐竜映像は日本の特撮では太刀打ち出来ない、全く歯が立たない
それは明らかであったので、その技術でゴジラを世界市場にデビューできるのら、その方が良い
そう誰もが素直に納得できていたのです
だから「すべてが終わる」なのです
ところが、このハリウッド版というのが悪名高いエメリッヒのゴジラだったのです
しかも1998年に公開が遅れます
そんなハリウッド版ゴジラになるとは露知らず
遅れるからにはもう少し平成ゴジラシリーズを続けようとなります
翌1994年12月には「ゴジラvsスペースゴジラ」
1995年12月には「ゴジラvsデストロイア」が公開されることになります
しかし、平成ゴジラシリーズは本作で頂点に達した感があります
後はどう有終の美を飾るのか?
どういう終わり方をすれば良いのか?
そんな雰囲気が漂うのです