「シンゴジラの前に対ゴジラシミュレーションに挑んだ一作」ゴジラ ヒロさんの映画レビュー(感想・評価)
シンゴジラの前に対ゴジラシミュレーションに挑んだ一作
ゴジラ復活の狼煙を上げたゴジラリブート作品。
製作は昭和59年だが、平成ゴジラシリーズ第一作と捉えていいだろう。
本作は昭和ゴジラでツッコミ所だった点、巨大生物が襲来してるのに政府は何してんだよ!とかゴジラ以外に宇宙人も出てくんのかよ!と言ったSFの範疇を超えたトンデモな嘘を極力抑え、シンゴジラが行った本当にゴジラが来たときのシミュレーションを80年代に挑んだ作品だと思う。
しかしシミュレーションの前に映画というエンターテイメントであり、スーパーXといった超兵器の投入等シンゴジラほどリアルを徹底出来なかった点も感じられる。
本作からゴジラvsビオランテまで5年の間が空いている。以前、町山智浩さんの評論で1984ゴジラが上手くいかず、という意見を聞いた。
どうも失敗してしまった印象の先入観があった作品。確かに見終わったあとどうもモヤッとしてしまった。それはなぜか。
一番の問題は主人公が誰か分からないという点だ。この作品、最も主人公たり得たのは夏木陽介演じる林田博士だ。彼は主人公になるバックボーンを持っていた。しかし、彼の感情の描写が浅すぎた。彼のゴジラへの憎しみと同調をきちんと入れるだけで自分は傑作になっていたと思う。
田中健演じる牧五郎(この名前はビックリ!)は沢口靖子への仕打ちや田中健本人の冷たさもあって感情移入出来なかった。宅麻伸なんて救出された一般人だし。(正直、彼のゴジラへの怒りの根源も分からなかった)
誰にも感情移入しにくいというのが本作の失敗ではないかと思う。
そして画を優先するあまりそれは無いだろうという場面も多々あった。霧が深いという理由はあったが原発に上陸するゴジラにあんなに気付かないものか?またゴジラ上陸してるんだから新幹線運休にしなさいよ!(笑)
それに宅麻伸は救出された一般人だからゴジラへの軍事作戦に同行できないだろう。
等々、違和感を感じてしまった。
ネガティブな点を挙げてしまったがこの作品、特撮が本当に素晴らしい。自分はシンゴジラに匹敵するくらい1984ゴジラの特撮が好きだ。
本作のゴジラ東京破壊が凄くリアルで生々しい。ゴジラくらいの巨大生物がビルを破壊するとこうなるよな、というのが納得行く。
特に新宿副都心のビル群を見上げながらの破壊が良かった。
またツッコミ所はあるが原発でゴジラを足からずーっと上にカメラがなめてゴジラの頭まで写すあのカットは本当に素晴らしい。
そして夏木陽介がいい!三大怪獣 地球最大の決戦以来のゴジラ作品だが出演者の中で一番演技が出来る方だと思った。
惜しむらくは夏木陽介演じる林田教授をもっと膨らませたかった。彼が両親への仇からゴジラを憎み、しかしゴジラ自身も人類の被害者(原発で核燃料を接種しないと生きられない描写を哀れに見せるとか)であると気づき、もう半分許してるくらいの気持ちでゴジラを介錯する、というような話にすれば自分は納得が行った。
ラスト、総理大臣が泣くテイクを使ったことを後年、監督はミスだったと悔やんでいたそう。そうだと思う。あそこで総理大臣は泣いてはいけない。人類側代表としてしっかりと地に足をつけなければいけないキャラクターだ。(泣くのは林田教授であるべき)この辺のズレたセンスが作品全体に漂っていると思う。後で知ったが監督の橋本幸治さんは「さよならジュピター」の監督でもあったそう。トンデモ作品扱いされてしまう邦画SFだが恐らく橋本幸治さん自身の監督センスというものに起因しているような気がする。
この作品はかなり惜しい。ちょっと改変すれば傑作になれた作品だと思う。しかし、この作品がきっかけとなりゴジラが復活出来、平成、ミレニアム、ハリウッド、シンゴジラとゴジラシリーズは続いていく。影に隠れがちだけど独特の魅力がある作品です。