劇場公開日 1986年11月15日

「冗談抜きで男と女の真剣な愛の物語です そして強い夫婦愛の物語であり、姉妹の愛憎劇です」極道の妻たち あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5冗談抜きで男と女の真剣な愛の物語です そして強い夫婦愛の物語であり、姉妹の愛憎劇です

2020年1月3日
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鑑賞方法:VOD

北新地、ミナミ宋右衛門町、祇園の夜の町で遊んだことのある方なら如何にリアルであるか、笑い転げる程だと思います

端役に至るまで、役ごとの顔つき、髪型、服装、立ち振る舞い、言葉遣いなどから発する全体の雰囲気
ロケ先、セット、小道具
何もかもリアリティの塊です

岩下志麻の姉さんぶり
ド迫力、かつ物凄いリアリティがあります
これこそ姉さんです
かつ美しく惚れ惚れしてしまいます
別格の美しさです
結婚前は北新地のナンバーワンホステスであったとの設定に説得力があります

そして冗談抜きで男と女の真剣な愛の物語です
強い夫婦愛の物語です

姉妹の愛憎の物語でもありました
妹の真琴が杉田の潜伏先のアパートを訪れるシーン
安治川河口の辺りです
アパートの階段脇の外壁に九条OSというストリップ劇場のビラが貼られています
確かに追われているヤクザが潜伏しそうな界隈です
そこは1982年の市川崑監督の名作細雪で四女がバーテンの男と同棲を始めたのと同じ界隈です
特徴的な川と橋と両岸の町並みを同じ構図で捉えます
つまり五社監督はこのシーンで本作は細雪と同じく姉妹の愛憎物語でもあると説明しているのだと思います
結局、この二人の姉妹はお互いの最も大切なもの、愛する男の命を奪いあうのです

妹を演じるかたせ梨乃が、ウブなスナックのヘルプから次第に極道の妻へと変貌を遂げるのも見所で、本作のもう一方の主題でもありました

総長の妻、本家の姉さん役の藤間紫の貫禄は半端ありません
岩下志麻を完全に凌駕しています
この貫禄があってこそのリアリティです
冒頭の本家の姉さんの突然の登場で岩下志麻が慌てふためくシーン、仏壇のまえで岩下志麻が叱りとばされるシーン
どちらも白眉の名シーンです

1986年、バブルの直前の勢いが画面に反映されています
グアム島のコテージ、クルーザーとド派手です

そして現代
なにやら日本最大の組が割れて抗争しているとか
しかも、最近抗争している組の幹部の出所で、にわかに戦争になって、抗争相手の組の幹部がなんと自動小銃で銃撃されて殺されてしまうとか
まるで本作そのままです

しかしこの事件の記事を読むと、場末のくすんだようなしけた舞台、登場人物も老人ばかり
本作から30数年、日本の衰退も本作から感じてしまいます

劇中で極道というものは、自動車の排気ガスみたいなもんやという台詞がでてきます

その自動車の台数も減って、ロールスロイスやベンツではなく軽自動車ばかりになってしまったようです

しかもその自動車自体も排ガス規制対応エンジン、ハイブリッド、果てはEVとなって、排気ガスも限り無く出なくなってきたようです

逆に老人の運転する車の暴走の方が怖いかも知れません

撮影は森田富士郎
本作でも鬼龍院花子の生涯を思い出させる美しいシーンを随所に観ることができます
世良公則演じる杉田潔志が殺されるシーンでの窓に写る残照はことに心に残る美しさでした

あき240