故郷(1972)

劇場公開日:1972年10月28日

解説

瀬戸内海の美しい小島で、ささやかな暮しをつづけてきた一家が、工業開発の波に追われ、父祖の地に哀惜の思いを残しながら、新天地を求めて移往するまでの揺れ動く心を追う。脚本は「泣いてたまるか」の宮崎晃、監督は脚本も執筆している「男はつらいよ 柴又慕情」の山田洋次、撮影も同作の高羽哲夫。

1972年製作/96分/日本
原題または英題:Home from the Sea
配給:松竹
劇場公開日:1972年10月28日

あらすじ

瀬戸内海・倉橋島。精一、民子の夫婦は石船と呼ばれている小さな船で石を運び生活の糧を得てきた。民子もなれない勉強の末に船の機関士の資格をとった。決して豊かではないが、光子、剛の二人の子供、そして精一の父・仙造と平和な家庭を保っている精一に最近悩みができた。持船のエンジンの調子が良くないのである。精一はどうしても新しい船を手に入れたかった。そこで世話役に金策の相談を持ちかけたが、彼は困窮した様子を見せるだけだった。各集落を小型トラックで回り、陽気に野菜を売り歩いている松下は精一の友人で、精一の悩みを知って慰めるのだが、それ以上、松下には何の手助けもできない。精一は大工にエンジンを替えるにしても、老朽化して無駄だと言われるが、それでも、夫婦で海に出た。その日は、海が荒れ、ボロ船の航海は危険をきわめ、夫婦の帰りを待つ家族や、松下は心配で気が気ではなかった。数日後、万策尽きた精一夫婦は、弟健次の言葉に従い、尾道にある造船所を見学し、気が進まぬままに石船を捨てる決心をするのだった。最後の航海の日、夫婦は、息子の剛を連れて船に乗った。朝日を浴びた海が、かつて見たこともない程美しい。精一は思い出した。民子が機関士試験に合格した日のこと、新婚早々の弟健次夫婦と一家をあげて船で宮島の管弦祭に向った日のこと。楽しかった鳥での生活が精一のまぶたをよぎった。翌日。尾道へ出発の日である。別れの挨拶をする夫婦に近所の老婆は涙をこぼした。連絡船には大勢の見送りの人が集った。松下も駆けつけ、精一に餞別を渡し、山のようなテープを民子たちに配り陽気に振舞った。大人たちは涙をこらえたが、六つになる光子だけは泣きだすのだった。やがて、船が波止場を離れた。港を出て見送りの人がだんだん小さくなっていく。精一と民子は、島が見えなくなっても、いつまでも同じ姿勢で立ちつくしていた。

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スタッフ・キャスト

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映画レビュー

3.5 【”落魄の美。”高度経済成長期、瀬戸内海の小さな島で父から引き継いだ石運搬船の運用で生計を立てる夫婦が、世の流れで廃業し島を離れる様を描いた作品。】

2025年9月17日
PCから投稿
鑑賞方法:VOD

悲しい

知的

幸せ

■瀬戸内海の小さな島。精一(井川比佐志)と民子(倍賞千恵子)の夫婦は、父(笠智衆)から引き継いだ石運搬船の運用を生業として、毎日、額に汗して働いている。
 裕福ではないが、2人の子供と精一の父と共に島で暮らしていた。しかし、木造船のエンジンの調子が悪く、精一は何とか修理しようとするが費用が高く、廃業を決意するのである。

◆感想

・山田洋次監督は”民子シリーズ”で、高度経済成長により、仕事を失い、故郷を離れざるを得なかった人たちの姿を残したくて、製作したのではないかなと思う。

・気のいい八百屋の松下さん(渥美清:この方が出演すると、何故かとてもホッとする。)が。”笑いながら言う。
 ”船長さんの仕事は、大きな工場よりも厳しい。けれども、賃金は安い。”

・今の日本は、第一次産業は衰退し、今まで日本を支えて来た産業の一つである製造業にも、若い人は来なくなった。
 工業高校を出ても、汗にまみれる仕事は敬遠される時代になったのである。

・では、若い人は何をするかというと、第三次産業に付く人が多くなった。これも世の流れであろう。

<山田洋次監督は、当時から将来の日本が、どのようになって行くのかを見越していたのではないか、と思ってしまった作品である。
 令和の現代に観ると貴重な映画だと思うし、精一と民子が厳しい状況下で必死に生きる姿は尊いと思った作品である。>

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NOBU

未評価 運子知新 なぜ?蒸気機関車を無くすんだ?って言うのと同じ。

2025年8月24日
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マサシ

3.5 石船の見せ場あり

2025年6月18日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

悲しい

 瀬戸内海の倉橋島で暮らす精一と民子の夫婦は、二人で石船と呼ばれる砕石運搬船の仕事をしていた。しかし船はエンジンの調子が悪く、修理をしようにも先立つものもないし、仕事の先行きも悪い。
 50年以上前の作品。それでも本質は今とあまり変わらないところが悲しいです。石船が傾いたときは驚きました。豪快な見せ場で、二度見ることができます。
 寅さんシリーズの出演者が、シャッフルされているのが楽しいです。

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sironabe

3.5 しんみり味わう懐かしく切ない日本の風景

2025年4月3日
iPhoneアプリから投稿

泣ける

悲しい

幸せ

「家族」から続く二人の夫婦っぷりと船長と機関士としての仕事っぷりは本物にしか見えません!
島の人々も含め時代の流れに“おいてけぼり“にされゆく“本物感“が切なく悲しく懐かしい日本人の感情を呼び起こします。
やるせない日常を時折ほっこりさせる渥美清さんと笠智衆さんの名人芸が見事なバランスを取り
山田洋次監督が映し出す船上や車窓から見る故郷の風景だけで、もう泣きそうです。

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映爺

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