劇場公開日 1964年3月14日

「三島由紀夫の分身の物語」剣 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5 三島由紀夫の分身の物語

2025年10月28日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

2025年は三島由紀夫生誕100年ということで、東京国際映画祭でも三島関連作品が数本上映されることに。一番の注目はポール・シュレイダー監督の「MISHIMA」の日本初上映だったのですが、残念ながらチケット発売日当日、専用サイトが混みあっているうちに売り切れに。そんな訳でもう1本観ようと思っていた本作「剣」を観に行って来ました。

主演は「眠狂四郎」シリーズで有名な市川雷蔵で、大学の剣道部主将である国分を演じていました。同じ”剣客物”ではあるものの、当然偃月殺法は登場しません。4年生になった国分は監督やOBの推薦で主将に選任されるものの、剣道一筋、純粋無垢、純潔を絵に描いたような人物で、剣道の腕は誰もが認めるものの、その性格は好き嫌いが分かれるタイプでした。国分と同級生にしてライバルの賀川(川津祐介)は、国分とは対照的にそこそこの遊び人。剣道では国分に敵わないし、国分の一徹さを嫌っている部分もあるものの、彼に対する友情とか憧れのようなものも持ち合わせている複雑な心境の模様。そんな賀川は、国分を”普通の男”にすることで自分と同じ土俵に立たせようと”ハニートラップ”を画策。付き合いのある同窓生の伊丹恵理(藤由紀子)と二人きりにさせることで、国分が”普通の男”か試す訳ですが、果たして国分は…
後半は夏合宿が舞台。海岸に近いお寺で合宿をする剣道部。”That's 体育会”とも言うべき猛練習を経て、国分にそこまで心酔していない部員にも自信が漲ってきたところで、賀川が禁止されていた海水浴に部員たちを連れ出し、物語は一気にクライマックスの悲劇に向かうという流れでした。

観終わって思ったのは、三島由紀夫の遺作となった「豊饒の海」の第2巻「奔馬」と通底する物語だったということ。剣道を舞台にしていることをはじめ、純粋無垢な青年を主人公にしていること、最終的にその純粋無垢ゆえに、環境に対応できなくなった主人公が自ら命を断つことなど、共通点がかなりありました。いずれにしても、本作の国分、そして「奔馬」の主人公・飯沼勲は、三島由紀夫自身の分身であるのだろうと思わざるを得ないところでした。

俳優陣ですが、やはり市川雷蔵がカッコ良く、それだけでも観に行って良かったと思わせるものでした。ハニートラップを仕掛ける伊丹恵理を演じた藤由紀子も、非常に魅力的でした。

そんな訳で、本作の評価は★3.6とします。

鶏