「妖艶な空気感に浸れる怪作」黒蜥蜴(1968) 鶏さんの映画レビュー(感想・評価)
妖艶な空気感に浸れる怪作
江戸川乱歩原作の明智小五郎シリーズの一作を、三島由紀夫が戯曲化し、それを深作欣二が監督として映画化、さらに主演を務めたのが美輪明宏(当時は丸山明宏)――この錚々たる布陣を見ただけでも、本作がいかにエポックメイキングな作品であるかが分かります。今回、Bunkamuraル・シネマにて期間限定上映されていたため、観に行ってまいりました。
私は三島由紀夫のファンということもあり、彼が出演する場面に特に注目していました。噂に違わず、ナルシズム全開の姿で登場した際には、劇場内に微かな笑いが漏れる一幕もありました(笑)
さて、本作の原作は明智小五郎シリーズの一篇ですが、テレビドラマで天知茂が主演した『江戸川乱歩の美女シリーズ』と同様に、主役は「明智」ではなく「美女」。本作におけるその“美女”とは、宝石泥棒・黒蜥蜴こと緑川夫人でした。演じるのは美輪明宏。その妖艶さと存在感は圧倒的であり、本作最大の見どころとなっていました。
また、「美しさ」を永遠に保存するために生きた人間を殺し、人形として保管するという黒蜥蜴の倒錯的な趣向には、三島由紀夫自身の美意識や死生観と深く通じ合うものがあると感じられ、その意味でも、三島ファンには実に興味深い作品でした。
作品内容とは直接関係しませんが、本作が公開された1968年当時、三島は遺作となる『豊饒の海』の第2巻『奔馬』を連載中で、その舞台となったのが三輪山を御神体とする大神神社(おおみわじんじゃ)でした。そして1970年に三島が割腹自決した後、丸山明宏が三島の供養のために美輪明宏へと改名したということを思い合わせると、この作品に漂う運命的な結びつきに、何とも言えぬ感慨を抱かざるを得ません。(勿論三島と美輪の親交は、本作以前からありましたが。)
ミステリー作品としては、論理性や整合性といった面は気持ちよいほどに端折られており、そうした観点では物足りなさを感じました。しかしながら、作品全体に漂う妖艶な空気感、レトロ調の美術、まさに舞台劇のように誇張されたセリフ廻しなどに目を向ければ、それらが一体となって、実に美しい芸術作品として結実していたように思います。
そんな訳で、本作の評価は★3.8とします。