「「マルガリータ」」黒いドレスの女 因果さんの映画レビュー(感想・評価)
「マルガリータ」
もう本当に酷い。カーチェイスは緩慢、アクション/ダンスのカットバックはしつこい、人物関係は錯綜をきわめる。作品としての力点が定まらないまま惰性で走りきってしまったような映画だった。
『月はどっちに出ている』ではポップな群像コメディを通じて在日アイデンティティ問題を炙り出す手腕を見せつけた崔洋一だが、本作のような明らかなハズレがあるので評価するにもしづらい。
せっかく菅原文太とか成田三樹夫みたいなただそこにいるだけで勝手に文脈ができてしまう俳優を起用しているんだから、彼らにすべてを投げっぱなしにしてしまうほうが面白い画が撮れたはず。
終盤の「実はアタシが犯人だったんです」「何だと?バカヤロウ、俺も一緒に死んだる」みたいな湿っぽい昼ドラ展開は本当に勘弁してほしかった。
ただ、冒頭だけは本当にいい。黒いドレスを着た原田知世がおもむろにバーを訪ねる。慣れない仕草でタバコに火をつけ「マルガリータ」と一言。レモンで塩をつけたグラスにチョロチョロと注がれるリキュール。それを嗜みながら「私を雇ってください」。いや、ほんとにこれでいいんだって。
下手なサスペンスに逃げず、こういう薄っぺらいハードボイルドを貫徹してさえくれたならば、タランティーノとは言わぬまでも初期の石井克人的な爽快活劇が出来上がっていたのではないかと思う。
コメントする