Coo/遠い海から来たクーのレビュー・感想・評価
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少年と首長竜の交流を描いた、心温まるジュブナイル・ストーリー。…かと思いきや?
フィジー諸島の一つ、パゴパゴ島に暮らす少年の洋助とプレシオザウルスの子供クーとの出会い、そしてそれをきっかけにして巻き起こる冒険を描いた海洋ロマン・アニメーション。
子供の頃に観て以来、約20年ぶり(もっとかも…)に鑑賞!
本作は日本テレビ開局40周年記念作品でありながら、未だにDVD化されておらず、配信もされていないという忘れられた映画となってしまっている。
その理由は不明だが、『ドラえもん のび太の恐竜』をパクったからではないか?とか、原作者の影山民夫が幸福の科学にハマったからではないか?とか、まあ色々と噂されている。
また製作総指揮であった角川春樹が、本作の制作中にコカイン密輸で逮捕されていたりと、なにかと曰く付きの作品である。
もちろん子供の頃はそんなことは知らんわけで、ただただクーが可愛い&プレシオザウルス怖え…という印象を受けた映画だった。
特にクーの母親が命を落とす場面と、その後に死骸が海岸に打ち上げられる場面はトラウマ級の恐怖を幼心に刻み込んでくれた。
色々と知識を得た今、改めて鑑賞してみてもやっぱり怖い…😖
酋長のママが歌う不気味な歌、激しいハリケーン、黒く濁りながら唸りをあげる海、血を流しながら苦しむプレシオザウルス…。
そりゃ子供の頃にこんなシーンを観ればトラウマにもなるわ💦そんじょそこらのホラー映画に比べても断然怖い。
今だに深海とか、そこに潜む未確認巨大生物とかにすごく恐怖を覚えるんだけど、多分この映画のせいだと思う。
久しぶりに見たクーはやっぱり可愛い☺️…んだけど、巨大なカエルみたいでちょっとだけキモさを感じるようになってしまっていた🐸
成体のプレシオザウルスと幼体のそれとで、あまりに見た目が違いすぎるだろ…、というか絵のタッチからして違うじゃねえか…、とかそんなことが気になるようになってしまっている自分が悲しい。
クーと少年の触れ合いと、なんか悪い奴らがクーを狙ってやって来たことは覚えていたのだが、その後のことは一切覚えていなかった。
それもそのはずで、傭兵部隊がドンパチやらかしたあとは、ちょっと子供には難しい展開に突入してゆく。
…というか、改めて鑑賞して思ったのはすげえヘンテコな映画だ、ということ。まさかこんな変な映画だったとは思わなかった。
前半1時間と後半1時間で、全く違う映画になってしまっているんだもん。
この前半1時間(子供心に覚えていた部分)は面白い!
南の島に暮らす少年が得体の知れない何かを拾ってくるという、『E.T.』とか『グレムリン』なんかでお馴染みのベタな展開なのだが、やっぱりこういうのはワクワクする。
しかも、拾ってくる対象がプレシオザウルスという、もしかしたら本当に存在しているのではないか、と思ってしまうギリギリのラインの生物というのが良い!
このプレシオザウルスの赤ちゃんを、海洋学者の父親に色々と相談しながら飼育していくという展開になるわけだが、この飼育の描写のリアリティが凄い!
何を食べるのか考えるところから始まり、飼育するために必要な水槽のサイズとか、調子が悪くなった時の対処法とか、飼育描写にとてもリアリティがある。
この描写のリアリティにより、物語への没入度が高まる。洋助とクーが今後どうなってゆくのか、気にせずにはいられないようになる。
クーの飼育描写のリアリティもさることながら、フィジー諸島の描写もとても優れている。
住人は非常に生き生きと描かれているし、クオリティの高い作画で南海の美しさを完璧に表現している。
本作の美術監督はジブリ作品をはじめとする多くのアニメ映画でその手腕を奮ってきた、レジェンド山本二三。さらに、作画監督補佐を務めているのは、今や説明不要となったアニメ映画監督の細田守である。
この2人の名前がある時点で、アニメーションのクオリティが素晴らしいものであることは言うまでもないだろう。
フィジー諸島に行ったことがないので、この映画の描写がリアルなのかどうかはわからないが、本当にこういう景色で、人々はこういう風に暮らしているんじゃないかな〜、と信じ込ませてくれるだけの説得力がある。
クーとフィジー諸島、この2つが魅力的に描かれているということだけで、この前半は完璧なのだが、そこに傷だらけのプレシオザウルスや打ち上げられた死骸などのホラー要素、そしてプレシオザウルスを追う謎の組織というサスペンス要素も加わっており、観客のワクワク感を大いに煽ってくれる。
最高の出来である前半1時間なのだが、後半の1時間は急にジャンルがアクションに変わる。
キャシーとかいう女ランボーと傭兵部隊との戦い、そして核実験を阻止するという大きすぎる目標設定。
これまでの緻密なリアリティはどこへやら、どんどんハリウッド映画のような展開になってゆく。
終いには洋助とクーのテレパシーというトンデモ設定まで追加されてもうなんのことやら…。
ゲリラ戦の描写はめちゃくちゃリアリティがある。少ない武器での立ち回り方やトラップの仕掛け方など、ワクワクする要素であるといえばそうなんだけど、さっきまで少年と首長竜の交流に心躍らせていたのに、急に『ルパン三世』みたいな展開になってもついていけないよっ!
物語を大きく広げすぎたせいで、映画全体のバランスが失われてしまっている。
はっきり言って後半のフランス海軍とのアレやコレやとか全然必要ない。
諜報機関のノルベール大佐とか、もうこの人自分でも何が目的なのかよくわからなくなってたんじゃないか。モブの水兵さんに2度も取り押さえられていて正直笑えた🤣
そもそも、プレシオザウルスを捕獲するためにあんなに滅茶苦茶な侵攻作戦をとるかね普通…。
前半のトーンで最後まで貫き通してくれれば、池澤夏樹の小説『南の島のティオ』みたいな爽やかな青春物語になったかも知れんのだが。なんとも惜しい作品だと思います。
最後にスタッフロールで気になった名前をピックアップ。
脚本は私の地元の偉人、岡本喜八。この人アニメもやっていたんだ!
制作進行に『ONE PIECE』や『ゾンビランドサガ』の境宗久。
主題歌を歌うのはユーミンで、挿入歌を歌うのはジョン・レノンの息子であるジュリアン・レノン!
声優に神谷明、千葉繁、大塚芳忠、若本規夫、青野武、家弓家正、石田太郎など、レジェンドがズラっと揃っているのは嬉しい。
お父さんの声優はデスラー総統でもお馴染みの俳優、伊武雅刀。伊武さんやっぱりめっちゃ良い声。もっと声優やって欲しい!
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