「黒澤清の作家性が娯楽性と高位で交わる」CURE つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
黒澤清の作家性が娯楽性と高位で交わる
黒澤清監督といえばショットが力強い人だ。その強すぎる画力が作品とマッチしていないときがあり、各方面から評価の高い人だと知っていても、もう観ないと誓った監督さんでもある。
それでも、この作品は評判がいいし観ておこうかと勇気を出したのだが、非常に満足できる面白い作品だった。
他の未見作品にも手を出すか現状では分からないが、黒澤清監督を好む人の気持はよく分かった。
殺風景で、乾燥したような画が続く。人物が映っていたとしても画面の中に命を感じないんだ。パワフルであるのに死んでいるような画はディストピアもののSF作品かのようだ。
この生命力を感じない無機質な画と対照的に、萩原聖人演じる間宮が催眠の引き金に自然物を使うのがいい。
風景として多少の自然が映り込むことはあっても、印象的なのは間宮の火と水だけである。
この対比だけでも既に面白い。
しかし本当に娯楽性を牽引するのは静かなミステリーと静かなサスペンスなのだ。
全く不可解な事件から始まり、被害者を増やしていきながら同時に間宮の行動がわかってくるストーリーテリングは見事。
先に結果があり、その後に別の被害者を映しながら間宮がやっていることを見せていく。
そしてその中に主人公である高部も呑み込まれていく。
明白な「催眠の方法」が分からないゆえに、いつどこで誰が悲劇に見舞われるか分からない恐ろしさは並のサスペンスの比ではない。
会話が成立しない謎の男間宮のキャラクターもいい。
こいつが謎すぎるせいで細かいところはどうでもよくなるし、全てがファンタジーかのように(映画だからもともと虚構だけど)思えてもなお現実味を感じる怖さがある。
結局「分からない」ことだらけにもかかわらず「分かった」ように感じさせてくる空白の絶妙さが素晴らしいのだ。
黒澤清監督の作家性が恐ろしいほどにフィットした娯楽度の高い作品。観てよかった。