「人間の本性」CURE yoneさんの映画レビュー(感想・評価)
人間の本性
前から見ようと思ってた黒沢清監督のこの作品。
アマゾンプライムで借りてみました。
1997年の作品ですけど、古さを感じさせません。
話としては、割とこの時代によく映画で扱われてたサイコスリラー(サスペンス)系。
「催眠術」がキーファクターになってますが、逆行催眠などはできたとしても、バツ印の殺し方まで伝道できるってのは、まぁ、演出でしょう。ただ、作品の中で登場人物の精神科医である佐久間が語っている「催眠状態でも人の倫理観は変わらない」というテーマが、この作品に深い意味を与えているように思います。
つまり、「実は人間は、殺人を行ってはならない大罪だと思っていない」。
あくまで間宮はキッカケでしかなく、問題は殺人を犯してしまうその本人にある。
おそらく監督はそう言っているのでしょう。
事実、この作品で催眠状態に入った普通の人々が殺人を犯している。
これが人の本性。
私もこの考えに賛同します。
犯人は社会的地位の高い人が多かったですが、それは「抑圧の深さ」を示してはいるものの、この本性という意味では大差ないでしょう。
人間は、直接的には行わないとしても、間接的に「他人を殺す(傷つける)」ことを厭わない。
2020年現在、ネット中傷で他人を平気で傷つけたり、自粛警察やマスク警察などを行う人たちを見ると、この本性が透けて見えてくる気がします。
話の流れとして、主人公の高部が新しい伝道師になっていく過程は面白いですが、それほど興味は惹かれませんでした。まぁ、最後20分くらいは雲の中のバスシーンなど、半分現実、半分白昼夢、みたいな感じでしたが。最後の喫茶店のシーンはタバコの火でウエイトレスを操ったのかな?奥さんをどう殺したか、など含めて、その意味をミステリーとして考えるのは面白いですが、些末な話でしかないでしょう。
しかし、タイトルが「CURE(癒し)」というのは興味深い。たしかに、社会システムの法外に出るのは「癒し」になるでしょう。それだけ、コンプライアンスやポリティカル・コレクトネスなど、現在社会がシステム内部に閉じ込められてしまっている。
何度か重要なシーンを見返しましたが、2回くらい観てようやく色んな伏線に気付ける、サスペンスとしても上質な作品です。
黒澤監督の他作品も、もっと観てみようと思います。