劇場公開日 1976年2月11日

「本作の原作者も製作者も監督も、中国共産党も意図しなかったメッセージを本作をこの21世紀に於いても今なお発しているのだ!」君よ憤怒の河を渉れ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0本作の原作者も製作者も監督も、中国共産党も意図しなかったメッセージを本作をこの21世紀に於いても今なお発しているのだ!

2020年5月26日
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鑑賞方法:DVD/BD

呆れた、これほど酷い映画も久々に観た
何も言いたくない

では何故こんな映画が、中国でそれほどの大ヒットになったのだろう?そこを考えてみると評価が少し変わった

映画のクオリティが受けたなどではないのは明白だ
中国共産党からすれば、悪の黒幕は日本の政権与党と覚しき軍国主義復活を目論む極右政治家でありそれを倒す映画なのだから何も問題はない
むしろ政治的に奨励すべきだ

しかし、中国の一般大衆は違った視点で本作を観たのではないか?

同じ東洋人の日本人、それも敗戦国で焼け野原にされた国がこれほどに豊かな暮らしをしているその事に衝撃を受けだのだ
そして圧倒的な力を持つ権力者に楯突く映画が自由に撮れる国であることに驚愕したのだ
なにしろラストシーンは国家権力の象徴である国会議事堂に背を向けてヒーローとヒロインが颯爽と胸を張って歩くのだ!

翻って当時の中国の現状はどうだったか?
世界最貧国ラインの貧しい暮らし
十数億人の中国人民は大躍進と文化大革命という政治的な大災害を経て、飢餓と理性知性の破壊の限りが尽くされてきた中で生き延びてきたのだ
彼らはそんな中で戦後世界を何十年と過ごしてきたのだ

しかし、そんな不満を口にする事は中国共産党への批判となってしまうのだ
その嫌疑を受けただけで当時も今も中国では当局に連行されるのだ
文化大革命のさなかなら紅衛兵というナチの親衛隊ともいえる中国共産党の私兵が、密告によって動き、今でいうメディアリンチのような公開の辱めを与え、職と地位を奪い都会から僻地に追放させたのだ
まかり間違えば人知れず精神病院送りにしたのだ
中国共産党の正しさを信じられないのは精神がおかしいとされたのだ
それどころか人知れず逮捕され裁判もなく銃殺されたりもしたのだ

つまり本作の事例は彼ら中国人民にとっては生々しいつい最近の記憶であったのだ

それなのに、日本はこうなのか!
日本人はこんなに経済的な繁栄を謳歌しているのか!
日本では自由にこんな映画を撮れるのか!

恐ろしいほどの衝撃だったに違いない
この驚愕の衝撃が空前の大ヒットになった原因だと思う

もしかしたら、それが中国の人々が目覚ましい近代化を成し遂げた原動力の秘密だったのかも知れない

そして時はながれ、本作の中国公開から40年以上の年月が過ぎ去った
中国の驚異的な発展はご存知の通りだ
日本人より豊かな生活をしている中国人の数はもしかしたら日本人より多いかもしれない

しかし政治的な自由はどうか?
未だに本作公開当時とさして変わってはいないのではないか?
むしろネットワークをビッグデータを駆使した超監視社会となって当時以上に中国の人々には政治的な自由は無くなっているのかも知れない

政治的な批判者が精神病院に送り込まれ廃人にされてしまう、こんなつまらない映画のような事が現実に21世紀の今現在起こっているのだ

全く皮肉なことだ
本作の原作者も製作者も監督も、中国共産党も意図しなかったメッセージを本作をこの21世紀に於いても今なお中国人民に発しているのだ!
なんという素晴らしい映画ではないか!

ところが、その日本はどうか
本作の主人公の役職よりもずっと高位の検事長が賭麻雀で懲戒ではなく訓告だけで済まされて辞職したとの報道に接したばかりだ

法と秩序に対する国民の信頼を失ったら世の中がどうなる!

だからといって、検察庁が不問に付すわけにはいかないのだ

これらは劇中の台詞だ

日本の社会が悲しい事に腐敗してしまったのだろうか?
それとも本作のように、彼は誰かにはめられたのだろうか?

劇中、能登金剛のシーンがあります
1961年のゼロの焦点のオマージュです
というか聖地巡礼のような全く同じ場所、同じアングルと思えるシーンがあります

あき240