劇場公開日 1996年7月27日

「夢と現実」キッズ・リターン グダールさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5夢と現実

2016年8月13日
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残酷なラスト。
世間ではこの映画を、北野武が初めて生きる希望を描いた映画だと捉えられているようだか、私にはあれほど残酷な最後はないように思えた。

あのラストを「生きる希望」と考えるのは、日本人特有の考え方なのではないか。
一人は日本チャンピオンを目指したが、悪い先輩にそそのかされて夢破れた。
一人はヤクザの親分を目指していたが夢破れた。
積み上げてきたものが、一瞬のうちに0になったのだ。
苦しみは計り知れない。
二人のこれからの人生は、辛いものになることは想像できるが、
「若ければなんでもできる」
「ダメだとわかっていてもやるべきだ」
という日本人特有の楽観的な考え方が、この映画をハッピーエンドだと捉える遠因となっている。
映画の内容は観る側の解釈によるものだから、それも決して間違えではないのだろうが。

この二人の挫折の事実を冷静に見ると、二人の人生はどん詰まりだということは誰が見ても明らかであると思う。
そんな二人がなんの根拠もなく最後に「馬鹿野郎。まだ始まっちゃいねぇよ。」と言って笑う。
なんて、切なく、悲しく、残酷な物語であろうか。

この映画から受け取るべきメッセージは、そこにあるのではないか。
「失敗してもやり直せる!」とかいうそんなくだらないメッセージではない、
「夢を見るのにはリスクがある。」
「夢が叶う人の影には夢破れる人がいる。」
というような、よりシビアで、よりリアリティのあるメッセージこそ受け取るべきであると思う。

だからこそ、リスクを冒して夢を見るのは素晴らしい。

現代の人々は簡単に「夢を持て」とか言い過ぎる。
夢を持つのはリスクがある。リスクがある以上強制されるべきものではない。

それでも夢を持ち続けることができるかを問うべきで、リスクを語らず無条件に夢を持たせるのであればそれは夢ではない。

この映画は夢ではなく現実を描いている。

グダール