「黒い爪」飢餓海峡 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
黒い爪
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罪を犯した男を追いつめたのは、刑事の執念ではなく、女の純情だった。
すごく昔にこの映画を観た時は、そう思ったのだけど。
たまたまテレビでやっていて久しぶりに観たら、女の純情というよりも、怖さが際立っていた。
娼婦(左幸子)は、自分を助けてくれた男・犬飼が残した爪のカケラを大事に取っており、それを夜な夜な愛撫しながら「犬飼さーん、犬飼さーん」と身悶える。これって、純情っていうより、変態じゃねえの?と思わせてしまう、左幸子渾身の演技。変態と言ったら気の毒か。一生浮かび上がれない女に唯一差し伸べられた「救い」への妄執。何だか本当に怖かったなあ。
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せっかく犬飼に救ってもらったものの、また娼婦の道へ堕ちる女。
自分の犯した罪を消そうと功徳を積む犬飼。それでも、また、罪を犯してしまう。
そして最後、追いつめられた犬飼は、罪の発端となった海峡に身を投げて終わる。無常だなあ。そんなことを思っていたら、隣で一緒に観ていた家族が、
「犬飼、あれ、絶対、向こう岸まで泳いで渡る気だね。死ぬ気ゼロだね。そういう顔してたね。嵐の日も生き延びたんだから、大丈夫でしょ」と、言い出したので、ちょっとビックリした。ラストが身投げではなく逃亡だとすると、無常ではなく、ものすごく図太い人間の「業」の映画になるわなあ。
そのトンデモ解釈の正誤はともかくとして。
犬飼役の三國連太郎は、どっちに転ぶか解らない「人間の正邪」そのものを演じていたのではないかと思う。
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追記:読経する刑事役、伴淳三郎も渋かった。
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